スト・オブ・オタワ07
文化庁メディア芸術祭2008


 Animationsでインタビューを掲載したクリス・ロビンソンさんがフェスティバル・ディレクターを務めるオタワ国際アニメーション・フェスティバル。今回のメディア芸術祭では、マネージング・ディレクターでありクリスさんの奥さんでもケリー・ニールさんが来日し、講演を行いました。

 その一環として、山村浩二が『カフカ 田舎医者』でグランプリをとった2007年のフェスティバルの傑作選が上映されました。そのレポートです。プログラムはここにあります。 ("Teat Beat of Sex"だけは内容的にいろいろと問題があったらしく省かれていましたが……)
 "OIAF 07 Signal Film"はジョナス・オデルなどが担当したジングル。(ここでpodcastingしてます)。特に特筆すべきこともないですが、今年のメディア芸術祭のジングルはとにかく長かったなあ……。そのことばかりを思い出しました。
 "Lapsus"(Juan Pablo Zaramella)は白と黒の違いを効果的に活かしたそこそこよくできた作品。尼さんが犯してしまうちょっとした「過ち」(lapsus)。
 "John and Karen"(Matthew Walker)は、恋仲にある小さなペンギンと大きなシロクマの会話劇。二人のサイズの違いに反比例する立場の大きさの違いにクスリと笑わされる。細かい仕草で二人の性格をきちんと表現するなどきちんと作り込んであり、楽しく観れます。
 "L'eau Life"(Jeff Scher)はネット用作品のグランプリ。ラーキンの"Walking"を思い出させもする作品。ただし、デザイン性を優先している。こっちはロトスコープをきっちり使ってます。
 "t.o.m"(Tom Brown & Daniel Gray)は各フェスティバルで受賞が続いている卒業作品。いじめられっ子のある朝を描く恐るべき作品。最初はクスリと笑ってしまうが、ラストには戦慄してしまう。これはなかなかすごい作品です。「なんで服を脱ぐのだろう?」と思い上映に居合わせた山村さんに質問してみましたが……なるほど、ゾクリとしました。デジタルならではの質感というものがあるとすれば(つるつるでフラットで冷たい)、この作品はその質感とも合っているな、とちょっと思いました。
 "Doxology"(Michael Langan)は学生作品のグランプリ。いろんな引き出しをもっていて、そこそこセンスのある人だと言うことはわかりますが、作品自体は全体としてよくわかりませんでした。でも笑えます。
 "OOIOO "UMO" "(Shoji Goto)はベスト・ミュージック・ビデオ。OOIOOもそうですが、ボアダムス関連ってもしかしたら北米の方が日本よりも人気あるのでは……ってそれは言い過ぎかもしれませんが、向こうのサブカル少年少女たちは大抵みんな知ってますね。山村さんのところに来ていたデイヴィット君も「日本人アーティストといえばボアダムス」みたいな認識でした。クリップ自体は日本っぽいデザイン性。ただし作品自体はあまりタフでない印象でした。
 "Framing"(Bert Gottschalk)は抽象・実験のカテゴリーのベスト。ザクセン州の上映でも観ました。良い作品です。フィルムだともっと良いらしいので、広島でフィルムで観れることを願うばかりです。
 "I Met the Walrus"(Josh Raskin)は来週のcjaxで上映されますね。詳しくは昨年のcjaxレポートを。アカデミー賞短篇アニメーション部門にノミネートされています。台詞が分からずとも充分に楽しめます。年末あたり、ジョン・レノン関連のドキュメンタリーが二つ放映されていましたが、これもある意味ドキュメンタリー。なにかそういう流れでもあるのでしょうか。この作品もフィルムで観たら断然良さそうな気がします。
 "The Wail of Persephone"(Nick Cross)は、きらめくアイディアを持った作品が多いこのプログラムで唯一といっていいほどのひどさ。実はこの「ベスト・オブ・オタワ」プログラムは昨日も観たのですが、この作品に限っては「空を見ているほうが楽しい」と思いました。ですので今日は外に出ました。素敵な青空でした。
 "The Old, Old, Very Old man"(Elizabeth Hobbs)は、"The True Story of Sawney Beane"でもお馴染みの作家。昔話を題材に、木炭や水彩絵具などの素材の次元とキャラクターとして読み取られる次元のギリギリのところを綱渡りしていく作家。このバランス感覚はすごいです。フィルモグラフィーをざっと見通してみると、どんどん絵が曖昧になっていっているのがわかります。あとは技法と物語の必然性が絡めば傑作が生まれるのでは。この作品では、水たまりや群衆の表現にゾクっとさせられます。とてもエキサイティング。ナレーションが多く日本人にはなかなか難しいですが、そんなの関係なく面白いです。
 "Milk Teeth"(Tibor Banoczki)は……まあいいや。露悪的にしか思えませんでした。好きな人は好きなのでは。カバが大きくなるところだけは良かった。
 "Golden Age"(Aaron Augenblick)これは素晴らしい。パロディもここまでやればほんとにすがすがしいです。マスコットキャラクターたちの裏を探っていくというアイディア自体は別に目新しいものではありませんが、本当にある程度の歴史をもってそのパロディーキャラクターたちが存在していたと思わせてしまうほどの作り込み。膨大な知識が良い形で作品に活かされています。というか単純に笑えます。サイトで全部観れますので是非どうぞ。マスコットキャラクターっていっても天皇とか含まれていますよ。

 短篇アニメーションって面白い、と思わせてくれる素晴らしいプログラムでした。やっぱりアイディアって大事ですね。今年のオタワはカナダ特集、cjaxプログラムの上映、ソニック・ユースのリー・ラナルドによる生演奏付き上映、エロティック・アニメーション特集など面白そうなプログラムが組まれています。予定とお金があれば是非とも行ってみたいものです。(土居伸彰


関連サイト
平成19年度(第11回)文化庁メディア芸術祭ホームページ
文化庁メディア芸術祭2008「ベスト・オブ・オタワ07」