タモーフ
Metamorph(2005)

ドキドキワクワク、子供時代に戻って



 例えば空に浮かんだあの雲の形、「なにか生き物に見えるなあ」、あるいは草むらで見つけた見たことのない虫、「変な新種だったりして!」と幼い頃に考えたことはなかっただろうか。そんなドキドキワクワクした記憶がふとよみがえってくる作品が『メタモーフ』だ。
 
 一見植物の種のように思えるものから出てくる架空の奇妙な生物は次々に違う形に変化していく。この種は、ドクドクと脈打ち、ニュルニュルと変化して、バタバタと走っていく。そしてハタハタと枯れて、また生命として息を吹き返す。ラストコ・チーリッチは、この変な生き物の一生の「育て方マニュアル」をアニメーションにしたのである。

 アニメーションには、動き、物語、精神、と様々に追求する面があると思うが、映像としての新たな表現を追求することも、その一つである。このアニメーションの可能性を発見することに挑んでいる作家は数々いる。ラストコ・チーリッチもその一人である。2008年の広島国際アニメーションフェスティバルでの彼の特集は、作品集を上映しているというよりは、実験結果の「発表会」といった感じだった。いや、「自由研究の発表会」か。「子供じみている」と批判しているわけではない。それが、ほんとうに良くできた自由研究なのだ。だから彼の作品はおもしろい。
彼の実験の中には、あまりにくだらないものもある。例えば、おならについての作品や、アニメーション(映像)なのに、見えない珍獣達についての作品なんかもあった。しかし彼の場合、そういう部分はマイナス要素ではない。極端ではあるがむしろこういった彼独特のユーモアが、私たちの心に触れてくるので、必要な要素なのである。
 「メタモーフ」は、時に奇妙に、時にかわいらしく、生物の形がメタモルフォーゼしていくというアニメーションの基本的な動きの面白さをもっている。そこにチーリッチの「ユーモア」を掛け合せることで相乗効果をもたらした、彼の実験の中でも、ひときわ良い結果を生み出した作品である。彼の他の作品にも言えることだが、この作品はあまり気構えて見る必要はない。この作品には例えば、「今日の生物・植物の危機的状況へのメタファーだ」とか、そういう難しい云々は必要ないように思う。

 ただ、子供時代にしばし戻って、その奇妙な生物の行く末をドキドキワクワク、見守っていればいい。一つ付け足すとすると、子供の頃に失敗できない学校の科学の実験の授業、あるいは、林間学校などに行って、森の中の注意事項を聞いた時のような、先生の説明を懸命に聞いていた時を、もし、思い出せたなら、そんな感じでこの作品を見て欲しい。(北村愛子


作品DATA
Metamorph (2005/ 10'30")
監督:ラストコ・チーリッチ(Rastko Ciric)

関連サイト:
作家公式ホームページ:Rastko Ciric homepage
AWNtvにて一部視聴可

メタモーフ