2000年『トロント国際児童映画祭』レポート
NEW JAPANESE ANIMATION THE UNIQUE UNIVERSE OF YAMAMURA

 この10年ほどで、私の子ども向けの短編アニメーションが随分まとまってきた。この「トロント国際児童映画祭」での回顧上映は、1998年の「ソウル家族映画祭」、昨年のパリのフォラム・ド・イマージュにつづいて海外では3度目になる。
「トロント国際児童映画祭」は、「トロント国際映画祭」に属し、2000年4月8日〜16日に開催される今大会で3回目を向かえる。主催のSPROCKETSは、教育とエンターテイメントを合わせることで 若い世代に世界中の仲間たちとの共通の価値を発見させ、異文化の物語や伝統を分かち合わせようと、この映画祭を運営している。
 ディレクターのジェーン・スコッテルさんの尽力で、この映画祭では、始めての回顧プログラムとして、私のアニメーション特集が実現した。対象年令別に幼児向けと年少向けの2つにプログラムされた。また、今年1年、カナダのいくつかの児童映画祭で、プログラムが巡回する予定で、バンクーバーの「
Reel to Real・第1回青年のためのムービング・イメージの祝祭」、サスカチュワンの「FLICKS・国際児童映画祭」では、すでに上映が終わってる。
 招待をうけ、4月13日〜16日カナダを訪れることになった。私自身、60〜70年代のカナディアン・アニメーション、特にNFB of Canada(ナショナル・フィルム・ボード・オブ・カナダ-カナダ国立映画協会)からの影響が大きく、カナダで自分のアニメーション特集が組まれることは感慨深かく、本当に光栄だと思っている。

4月13日
 午後6時過ぎ、空港からボランティア・スタッフのお迎えで宿泊先のインターコンチナンタル・ホテルに付く。ジェーン・スコッテルさんがロビーで待っていてくれた。Eメールで何度かやりとりして、想像していた通りの知的で誠意あふれる方で、始めて会った気がしない。今日は気を使ってもらい、スケジュールはなにもない。ホテルで休む。
 時差が13時間、ちょうど昼夜が反転しているので、朝5時頃一度目が覚めてしまうが、明日に備え、なんとかもう一度眠る。

4月14日
 朝9時、ロビーで待ち合わせたジェーンさんと通訳のエイディマン・敏子さんと会場に向かう。歩いて5分ほどで上映会場のシネマ・コンプレックス方式の映画館ニッケルオディオンにつく。2階の劇場に向かうエスカレーターには小学生の団体が、スタッフと先生に誘導されながら沢山上っていく。今日は学校を休んでクラス単位でこの映画祭を見に来ているので、みんなはしゃいでいるそうだ。そう言えば自分も2〜3度学校から映画を見にいった覚えがある。制作者の方には失礼だが、たいていつまらない映画(「小公女」とか「ヘレンケラー」とか?)で、眠くなったが、授業の時間に映画に行ける特別な日は嬉しかった。自分のアニメーションがそんな子ども達にとって特別な時間に上映されるのはおもしろい。
 この日は午前10時から、仏、アイルランド、イギリス、オランダ合作の長篇セルアニメーション「アンネの日記(Anne Frank's diary)」(監督:ジュリアン・ウルフJulian Y. Wolff)の前に「ひゃっかずかん」が上映される。自分としては技術的ミス、動画の未熟な部分などがあって、ちょっと気恥ずかしい作品だが、ジェーンさんは、本当はひいきをしてはいけない立場だけど、と前置きをしてから、でもこの作品が僕のアニメーションの中で1番好きだと言ってくれた。映画のエモーショナルが盛り上がるところがいいとも。
 会場は200〜300席ほどの映画館。舞台挨拶をすると、子ども達は手を振ったり、歓声を揚げている。上映中、隣の子が、いちいち「TANK」、「KNOCKDOWN」....と小さな声で読みながら見ている。セサミストリートのアニメーションでも見ている様な感じかな、と思った。みんな積極的に楽しもうという姿勢がわかって、こちらが意図したギャグや志向にすべて反応してくれたのがうれしい。
「アンネの日記」を見ている途中、取材の予定だったので外に出ると、予定変更で明日に。昨日夕方着いてトロントの街をまだ見ていなかったので、映画に戻らず、劇場の近くをうろつくことにした。お昼すぎ街角で昼食のホットドッグを食べていると、買いに来た女の子2人が僕に向かって手を振ってくる。さっきの観客だ。


「ひやっかずかん」、
「遠近法の箱」が上映された会場
 午後1時からは「遠近法の箱」と学生の作った1分のアニメーション、スエーデンの実写の長篇「シャーディル(Sherdil)」(監督:ジタ・マリックGita Mallik)が上映された。「遠近法の箱」も「ひゃっかずかん」と同様に反応がいい。終わると大きな拍手。
 上映後、一旦ホテルに帰ると国際交流基金のコト・サトウさんからメッセージが。国際交流基金トロント日本文化センターは、今回の映画祭のスポンサーの一つで、私がこうしてトロントを訪れることが出来たのも交流基金のお陰です。お世話になりました。トロントの国際交流基金の場所は劇場の途中にあってホテルの近く。ギャラリーと図書館があって、日本の書籍、最新の雑誌、新聞、ビデオ、LDもある。
 スタッフのみなさんと話していると、クラシック音楽好きで、トロント交響楽団のラフマニノフのピアノ協奏曲第1番がよかった、今夜もあるということで、コトさんに予約をしてもらい、一緒に行くことに。実は生で交響曲を聴くのは始めてで、とても楽しみ。
 上演まで時間があるので、クイーンズ・ストリートをうろついて中華街へ。時間を見計らい、Uターンして、キング・ストリートの先のロイ・トンプソン・ホールへ。
 待ち合わせたコトさんと、トロント交響楽団の定期演奏会を聞く。プログラムは、ウエーベルン「オーケストラのための6つの小品」、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第1番」、ブラームス「交響曲第1番」。このホールは音が悪いことで有名らしいが、完成度のあるピアノ演奏、ブラームスの交響曲第1番の緊張感も美しかった。

4月15日
 朝10時から、幼児向けの特集プログラムで「おうち」「サンドイッチ」「あめのひ」 「キッズキャッスル」「キプリングJr.」「パクシ」が上映される。今度の会場はVIPルームと言って30人しか入れないが、椅子が広く個別にテーブルも付いている特別会場だ。昨日までの上映より、低年齢の観客だと聞いていたらが、大人がほとんど。後で分かったが、アニメーション、映画祭関係者が多かったようだ。
 上映中、10時30分から取材のため劇場のロビーへ。「The New Canadian」のモリさんからインタビューを受ける。週1回発行の日本語新聞の取材。このホームページを御覧いただいたようで、情報がくわしく、インタビュー内容も深い物に。私のプログラムは人気があって、モリさんの話だとキップが売り切れだったそう。
 取材後、通訳の敏子さんのすすめで、トロントで子どもの為の造型教室を開いているマーティー・グロスさんのアトリエを訪問することになった。劇場から車で10分程の住宅街にあるアトリエに着く。明るく広いアトリエで、ろくろや窯もあり、スーパー8(8ミリフィルム)で子供達が気軽に粘土アニメーションを作ったり、写真を撮って紙焼きしたりしている。
 粘土を見るとつい血が騒いでいじりたくなる。ここでは決まったプロプラムは無く、来た子ども達が自由に好きなことをしているそうだ。とはいえ、マーティーさんは、あっちに行ったり、こっちにきたり、エネルギッシュにテンションをあげて、子ども達と接している。
 そのあと敏子さんのお宅を案内していただく。古いイギリス式の2戸建て(1軒の家を半分ずつ)。ジャーナリストの御主人が、地下から3階まで案内してくれた。アンティークのカナダ製の木製家具が良い感じ。廊下の壁に蓋の着いた金属の穴があり、壁の中に管が下の階まで繋がっていて、声で呼ぶことができる。
 ランチを国際交流基金の所長の松原さんと副所長の横道さん、コトさんの4人で、オフィスの隣のカナダ料理のレストランへ行く。移民の国なので、カナダ料理ってどんな物かなと思ったら、肉、魚を中心にカナダ産の食材にこだわった店の様。まだオープンして4ヶ月ほどのお店で、デザートも含めとてもおいしかった。
 夜はボランティア・スタッフの一人、コリーンさんの自宅でスプロケッツのディナー・パーティー。映画祭も後半、ジェーンさんは疲れているようだった。一つのイベントを成し遂げるのは規模に関わらず大変なことだとすくなからず共感できる。4月16日
 午前10時、昨日と同じ私の幼児向けの特集プログラム。昨日と違って今度は親同伴の幼児が主な観客だ。幼児づれだと映画館はなかなか行きづらいが、こういった会場で、自分のアニメーションで親子が楽しんでもらえて本当によかったと思った。マーティーさんと交流基金の横道さんも見に来てくれる。
 マーティーンさんに午後の予定を聞かれ、美術館に行くつもりだと話すと、車で送ってくれると言う。次のプログラムも見たかったので、つきあってもらって一緒に見る。NFBの新作3本とノルウェーのクレイアニメーション「カタツムリ(Snail)」(監督:プジョ・サペジンPjotr Sapegin)の合計4本。1本目「カッコー、エドガーさん! (Cuckoo, Mr.Edgar!)」は、ハト時計ではなくカッコー時計のエドガーさんと時計の家に迷いこんだ本物の鳥のヒナたちとの交流を綴った3D-CGの作品。監督のピエール・ツラドウ(Pierre M. Trudeau)さんもゲストで来ていて、一人で2年かけて完成させたとか。この制作期間はNFBならではで羨ましい。


「ルドビック-雪の贈り物
(Ludovic : The snow gift)」


「ルドビック-ぼくの庭のワニ
(Ludovic : A crocodile in my garden)」

 次の2本はコ・ホードマンさんの新作、テディーベアーのルドビックのシリーズ。1本目の「ルドビック-雪の贈り物(Ludovic : The snow gift)」にはクレジットに「孫の.....にさ捧げる」とある。孫へのプレゼントの玩具の世界が人形アニメーションで再現されているみたい。(以前の作品も子どもの遊びをテーマにした物が多かったけれど。)2作目の「ルドビック-ぼくの庭のワニ(Ludovic : A crocodile in my garden)」のペーパークラフトの動物達の動きがなんともかわいく、コ・ホードマンさんらしさを感じた。
 マーティーさんに、美術館まで車で送ってもらい、一昨日歩いた所とは別の中華街で、飲茶を御馳走になる。

 5時から子ども番組専門チャンネルCTVのスタジオでクロージング・パーティー。子ども審査員から受賞作の発表があり、和やかに映画祭の幕がおりた。

4月17日
 朝8時リムジンで空港に。映画祭は終わった。

 映画祭の愉しみは普段見る事のできない作品にいち早く出会える所にある。のちのち興行にかかったり、メディアにのる物もあるが、映画祭でしか出会えない作品も多い。今回は短い滞在で、それ程沢山観られなかったが、NFBの最新の作品が見られてよかった。
 私のプログラムも観客の反応がよく、きっと子ども達の心のどこかに残ってくれたに違い無い。子ども達は、日常の雑事に追われてすぐにアニメーションを見たことは、記憶の片隅にいってしまうだろうが、いつの日かまた作品を通して再会できる日を祈る。 (山村浩二)

[00.05.11.up]


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