タワ国際アニメーション映画祭2009 レポート
土居伸彰
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<フェスティバル概要>
 オタワ国際アニメーションフェスティバルはASIFA(国際アニメーション協会)公認の世界四大アニメーション映画祭のひとつであり、北米では唯一のものである。毎年9月〜10月の時期に行われる。第一回の開催は1976年で、それからしばらくは隔年開催だったが、2004年からはオタワ国際学生アニメーションフェスティバルと合併し、毎年開催に代わっている。1995年からこのフェスティバルのディレクターの職についたクリス・ロビンソン(現在はアーティスティック・ディレクターのみ)が「名物」的な人物で、独自色が強い。
 今年のフェスティバルは例年よりも時期が遅かったので(10/14-18)、夜は殺人的な寒さ……


オタワの街にはリスが多い
(注記:今回のレポートの写真はクリックすると少しだけ大きくなります。)

<会場について>
 オタワの上映会場は、ひとつの建物で済んでしまう広島やメイン会場がきちんと確立されているアヌシーと比較するとかなりちらばっている。

(1)アート・コートArt Court
 フェスティバルのオフィスがあるアート・コートは石造りの比較的小さな建物で、ロビー階にはギャラリーがあり、展示が行われている。
 パスのピックアップやDVDなどの売店、ちょっとした休憩と交流のスペースが二階にあり、サイン会などもそこで行われる。隣には小さな劇場があり(アート・コート・シアター)、いくつかのプログラムはそこで上映される。地下にあるクラブSAWというギャラリーではマーサ・コルバーンらの展示と上映が行われていた。このギャラリーは2日目と3日目にはパーティー会場にもなり、小規模ゆえにかなり濃密な交流を行うことができる。


アート・コート周辺にはシャレたフェスティバル看板が。
「だってアニメーションのない人生など単なる人生なんだから」

(2)バイタウン・シネマBytowne Cinema
 アート・コートから街の中心の通りを15分弱歩いたところにある映画館バイタウン・シネマが、オタワフェスのメイン上映会場になる。キャパシティは一番大きく、コンペティションの公式上映(来場作家の紹介や観客賞の投票が行われる)はここだ。かなり特殊な二階建ての構造になっており、建物は古いものの、スクリーンは大きく、椅子の座り心地も良い。三列目くらいが一番迫力があった。
 ポップコーンが名物らしく、上映前には行列ができている。ポップコーンはかなり大きく、日本のラージがエクストラ・スモールという感覚なので買うときは充分に注意した方がよい。(飲み物のサイズも大きかった。コーラを全部飲んだら寒気がした。)
 また、アート・コートからこの会場に来るまでにはMetroという24時間営業の大きなスーパーがあり、ホテルに電子レンジなどがある場合はここで冷凍食品を買ったりするのもいいかもしれない。Metroの隣には驚くほど大きい酒の専門店がある。特にワインの品揃えが半端でなく良いので、おみやげを買うにはもってこい。日本酒をはじめとして、世界中の主要な酒も揃っている。ただしカナダでは公共の場所での飲酒は禁じられているので注意!(隠しながら飲んだ)


まさに北米の映画館!という感じ


内側は変則的二階建て構造

(3)エンパイア・シアターEmpire Theatre(リデュー・センターLideau Centre内)
 アート・コートのすぐそばには、リデュー・センターという大きなショッピング・モールがある。そこの最上階にはエンパイア・シアターという小規模なシネコンがあり、フェスの期間中はそのうちのひとつのスクリーンがフェス専用になる。バイタウンに比べるとかなり新しく、居心地はかなり良い。椅子もリクライニングが効くようになっている。(それゆえに油断すると眠りが訪れる……逆に、疲れたときはここに来るのがいいかもしれない。)ただしバイタウンに比べると会場の規模自体は小さい。
 このショッピング・モールには大抵の店は揃っているので、何か困ったらここに来るといいだろう。各種クレジットカードが使用できるATMも豊富にある。下層階にはフードコートもあり、日本食もある(寿司とか焼き鳥とか炒め物だけだけども)。ただし昼時は相当に混雑する。


モール最上階にあるシネコン型映画館

(4)カナダ国立美術館(講堂)National Gallery of Canada
 リデュー・センターから国会議事堂の方へと出ると、オタワフェスと同時期に開催されるテレビジョン・アニメーション・コンファレンス(TAC)の会場であるシャトー・ローリエというホテルがある。名前のとおり、城の外見をした豪華なホテルだ。そこからリドー運河に沿うようにして北上していくと、日本では六本木ヒルズ前にもあるバカでかいクモの彫刻がみえる。その奥にある大きなガラス製の国立美術館の講堂も会場のひとつ。会場のキャパ自体はバイタウン・シネマに迫るくらいに多いが、スクリーンが小さい。美術館の上映施設の常として、音も悪い。しかしここでしかやらないプログラムもあるので、我慢しないといけない。


国立美術館は立派な建物。ギャラリー・ショップにアニメーション関連書籍DVDなどはなし。

(5)カナダ文明博物館Canadian Museum of Civilisation
 国立美術館のそばにある大きな橋を渡ると、ケベック州になる。徒歩だと15分くらいかかるその橋を渡り終えると出迎えてくれる巨大な建物が文明博物館で、そこには子ども博物館やアイマックスシアターも併設されている。その講堂もメイン会場のひとつ。キャパも大きく、会場もきれいで、閉会式はここで行われる。しかしこの会場もに博物館併設の上映設備なので、上映の画質や音響に期待してはいけない。(この会場で回顧上映が組まれたハーツフェルトは、その点について不満を言っていた。)ケベック州はフランス語が第一言語なので、この会場ではフランス語のアナウンスも入る。今年のオタワはちょうどこの博物館のストライキとバッティングしたり、橋の車道が週末は工事のために通行止めになったり(バスが遠回りするはめに)、この会場に関しては少々トラブル続きだった。


国立美術館の横の橋を


ケベック州に向かってズンズンと歩き


橋を渡るとようやく到着

(6)各会場の行き来について
 会場がかなりちらばっていることもあり、主要会場を結ぶシャトルバスが走っている。ただし、主要四会場を一方向にぐるぐると回っているだけだし、本数も多くないので、歩いた方が速い場合が多い。一番離れているバイタウン・シネマから文明博物館までは徒歩だと30分以上かかるので、覚悟が必要。(ただ、中継地点である国立美術館そば、橋を渡る前にある公園メイジャー・ヒル・パークは非常に静かできれいで、オタワ名物の国会議事堂を川越しに見渡せる絶景ポイントもあり、夕方には息を呑むほどの光景になるので、一度は歩いてみるのもいいのかもしれない。)

<パーティー>
 ある種の人たちにとっては、アニメーション映画祭=パーティーだ。その点でいうと、オタワは特筆すべきほどの充実度を誇る。公式パーティーがかなり充実している。アヌシーでは閉会式のあとに一度のみ(しかも招待状がないと参加できない!!!)、広島では開会式と閉会式のあとの二度のみだが(ただし必ず毎晩どこかしらでパーティーは行われているけれども)、オタワでは毎日23時から26時まで各所で開催される。特にクラブSAWで開催されるパーティーは規模がかなり小さいので、お目当ての人間を必ず捕まえることができる。その他のパーティーはオタワの中心街であるバイタウン・マーケットの近辺のバーやクラブで開催される。初日のオープニング・パーティーはともかく、4日目のサタデーナイト・パーティーやクロージング・パーティーの会場はDJも招かれてかなりの大音量で音楽がかけられる。当然のことながら、話すためには大声を出さねばならず、声が涸れる。話も聞き取れない。


二日目の小規模なパーティー。左はマルコム・サザランド、右はMadagascarのバスティアン・デュボア


同じく二日目のパーティーから。ドン・ハーツフェルトが到着(右から二番目)。

<アニメーターズ・ピクニックについて>
 オタワ名物のイベントが、フェスティバルの中日である土曜の昼間に開催されるアニメーターズ・ピクニック。この日の昼は学校のプレゼンテーションを除いて上映がほとんどなく(前後の時間帯もパノラマだ)、多くの参加者がピクニックを訪れる。時期的にハロウィンが近いこともあり、メイン・イベントはカボチャ彫りコンテスト。世界中から集まった選りすぐりのアニメーション作家たちの手によるそれは創意工夫に富んでいて面白い。トップ3には賞品もある。ご飯や飲み物(もちろんアルコールも!)も無料で取り放題(食べ物の味に関しては期待しないこと)で、カボチャを彫らずとも交流の場として素晴らしく機能する。
 アート・コートと会場の公園のあいだには二階建てバスが走る。二階部分には屋根がなく、非常に気持ちいいが(寒くもあるが)、気を抜いていると街路樹の枝に顔を切り裂かれるので注意。


ピクニックへは二階建てバスで。風を切るのでかなり寒い。


オタワ名物、カボチャ彫りコンテスト


談笑するのも楽しみのうち。


コンテスト結果発表。カタギとは思えない風貌のクリス・ロビンソン


優勝はこれ。トースター型パンプキン。パンプキンを無駄なく使ったことが高評価。


第二位はアイディア賞。パンプキン飛行機。


第三位はホラー・パンプキン(真ん中)。「汚い」というのが受賞理由。

<開会式・閉会式>
 オタワのセレモニーはかなりシンプルだ。バイタウン・シネマで行われる開会式も、文明博物館で行われる閉会式も、基本的にはアーティスティック・ディレクターであるクリス・ロビンソンの独り舞台。開会式は彼と名誉会長(今年はオットー・アルダー)のスピーチのみ。閉会式はそれにプラスして授賞式のみ。ロビンソンのスピーチはユーモアに溢れ、会場からの間の手(ヤジ)も入り、かなりアットホームな雰囲気。(広島の厳粛さやアヌシーの芝居じみた感じと比べるとびっくりするほどだ。)エストニア・アニメーションについての自虐ネタが頻繁に入る。クリス・ロビンソン=エストニア・アニメーションという固定観念はこのフェスではかなり強いようだ。(みなが驚いたグランプリのアナウンス後も、「俺は何も口出ししてないから」とわざわざ断りを入れていた。) 2 >


開会式はバイタウンシネマで。


閉会式は文明博物館で。





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