タワ国際アニメーション映画祭 1998年レポート

 フランスの『アヌシー』、『ザグレブ』、日本の『広島』と並んでASIFA公認のアニメーションフェスティバル『オタワ国際アニメーション映画祭』。 60-70年代のNFB of Cananda制作のアニメーション作品に多くの影響を受けた僕にとって、カナダはアニメーションの作り手として大変関心のある国でした。前回も入選したのですが行くことができなかったので、今回訪問できてとても良かったです。日本人の入選作は、他に黒坂圭太さんの「パパが飛んだ日」と、フランス、エクス・マキナ制作、山口ケイコ演出の「フライング・フィッシュ・トビー・フー・アメイドゥ・フォー・ザ・スター」。フェスティバル全体の印象を一言でいえば「スマートな」フェステイバルでした。

9月29日
 カナダの主都、オタワ。整然と美しい町並み。紅葉が始まったところで、滞在中、日に日にカエデの赤が濃くなっていきました。映画祭のメイン会場になるのは、運河沿いにある、オペラの劇場が2つ入っているカナダ国立劇場。日本でいうと初台の新国立劇場と言ったところでしょうか。
 午後から受付が開始されるので、国立劇場内のフェステイバルのカウンターにいると、CBSのレポーターにテレビの取材を受けることになりました。東洋人が珍しく家族ずれでフェスティバルに来ているからでしょう。
「日本で『オタワ国際アニメーションフェスティバル』は知られているのか。」「いいえ、アニメーション関係者以外はあまり知られていないと思う。」「なぜだ。カナダで開かれる、重要な映画祭なのに?」「…えーそれは、あまりマスコミに紹介されていなし、その理由は…」答えに困ってしまった。たしかに今回日本人は僕達意外、アニメーション作家、マスコミ関係、映画祭関係者等ひとりも来ていなかった。
 オープニング上映作品は夜7時からで、あのスピルバーグのドリーム・ワークスとパシフィック・データ・イメージ制作のフルCG長篇アニメーション「アンツ(ANTZ)」でした。同じ虫をキャラクターにした、ディズニー&ピクサー(トイ・ストーリー・コンビ)の「BUGS LIFE」より急いで完成させて先に公開したそうです。 北米公開前のプレミア上映ということもあって広いオペラハウスの会場は熱気に包まれていた。

9月30日
 街路樹に時々リスを見かける。同伴してもらった、助手の清瀬さんは3年間カナダでアニメーションの勉強をしていたのですが、彼女によるとカナダのリスは、日本のハトみたいにどこにでもいるそうです。たまに車に引かれていたりすることもあるとか。
 夜9時から始まるコンペティションの1本目は、ノーマン・マクラーレンを彷佛とさせるカナダのリチャード・リーブスによるシネカリの作品で始まりました。2本目、イタリアのロベルト・カッシーニの「フェスティバル」というパステル画のアニメーションが印象的で1番気に入りました。
 全体を通してコンペティションのプログラムの中にかならず1、2本は抽象、実験アニメーションが含まれていたのは、1次審査員の誰かの好みなのでしょうか。

10月1日
 午後、エストニア特集2。プリート・パルンの「草上の朝食」を見る。何度見ても面白い。大傑作。
 夜、コンペティションの2回目。ロシア人のガイ・バディン(レッド・ウルフというクレイ・アニメーションを記憶されている方もいるかと思いますが)がアメリカで作ったコカ・コーラのCM。皮肉な内容で笑える。毎回コンペの会場に入る時に小さな紙にコピーされた投票用紙を配られます。その回のコンペ作品が書いてあって、ベスト・ワンをチェックするのです。それが集計されて観客賞が決まるのですが、僕がこの日選んだのは、ロシアの「ピンク・ドール」。監督はバレンチン・オルシュバング。鉛筆デッサンの絵がかわいく、いい感じのイラスト。僕はどうもアニメーションをまず絵の好みで判断する傾向があるようです。

10月2日
 午前のレトロスペクティブは、審査員も努めるイゴール・コバリョフのレトロスペルティブだったが、時差ボケに勝てず見そびれてしまいました。残念。
 午後は ピクニック。近くの川沿いの公園に大きなテントで会場が作られていて芝生にオレンジ色のハローウィン用のカボチャが山積みされている。ランタンを彫刻するコンテストが学生を中心に開かれる。空気が乾燥していて、木々の色が澄んで美しい。川に浮かぶ藻が綺麗。
 夜は、コンペティションの3回目。今日は会場が満員。学生が多いのか、妙に盛り上がっている。「ジェリース・ゲーム!ジェリース・ゲーム!」とコールしている人もいる。今日の1本目に上映される、ピクサー制作のアカデミー賞も受賞している3DCG。今年の広島でも上映されているが、僕は行けなかったので初見。キャラクターの表情づくりがうまい。
 他に気になったものは「ウオレスとグルミット」ですっかり日本で有名になったアードマン・アニメーションズの「ステージ・ライト」。監督はニック・パークじゃなくてスティーブ・ボックスと言う人だが、キャラクターや動きは似ている。サイレント映画の時代の役者の話だが、挿入される白黒の映画をクレイアニメーションの役者が演じているところがユニーク。

10月3日
 午後3時からコンペティションの5回目。僕の「バベルの本」が上映される。16ミリの映写機の回転が安定していなく、音がヨタッてしまっている。ビデオ上映のほうが音もステレオだし、色もよかったかと後悔する。他の入選作は35ミリが多く、ドルビー・ステレオを使っていて、大きな会場だと上映コンディションに歴然と差がつく。特に音の完成度で見え方がずいぶん変わる。分かっていたけど、改めてフィルムで作らねばと強く思った。
 午後9時からコンペティションの最後の上映。 黒坂圭太さんのMTVロゴアニメーション「パパが飛んだ日」が上映される。みんな爆笑。
 コンペティションのトリはプリート・パルンの最新作「ザ・ナイト・オブ・ザ・キャロッツ(ニンジン達の夜?)」 30分のセル・アニメーション。シュールな話でカタストロフィーを感じる何とも説明しがたい作品。カッコイイ。

10月4日審査発表
 ポール・ドリエセンのレトロスペクティブ。未見の作品もあったし、1度みたきりでもう一度見たいと思っていた「あやとり」や「卵殺人」も見られて満足。
 エストニア特集3をサブの会場の一般の映画館ニケルオディオンで見る。またまたプリート・パルンの「トライアングル」、多分日本では上映されていない。三角関係を巧みな演出でみせる。おもしろい。
 同じ会場で続けて昨日見そびれたコンペティションの4回目を見る。こちらは50人ぐらいの小さな会場で、上映もビデオ。米万さんに面白いと聞いていたドイツ、ギル・アルカベッツの「ルビコン」。オオカミとヒツジとキャベツを1つの舟でどう組み合わせてうまく渡れるかとういう謎掛けを題材にしたナンセンス・ギャグ・アニメーション。たしかにおもしろかった。
 夜、クロージングと審査発表。審査員は、アメリカのイゴール・コバリョフ、エストニアのヤンノ・ポルドマ(「バースデイ」という子どもの絵を使ったアニメーションが以前広島で上映されている。好きな作品です。)、ニュージーランド生まれでイギリスでスタジオを持つのエリカ・ラッセン、イギリスのマイク・スミス、ブラジルのリア・ザグリーの5名。
 グランプリはエストニアのプリート・パルンの「ザ・ナイト・オブ・ザ・キャロッツ」。インディペンデント・ショート・フィルムのグランプリは同じくエストニアのマチ・キュット監督「アンダーグランド」。実写の駒撮りと切り紙アニメーションをカットバックさせた実験作。観客賞はロシア、アレクセイエフ・ペトロフの「マーメード」。黒坂さんの「パパが飛んだ日」も見事部門賞を受賞しました。

 4回に渡るエストニア特集上映といい、ピャルンさんのグランプリ、「アンダーグランド」のインディペンデント・ショート・フィルムのグランプリ、広島でも上映されたエストニアの新人ウロ・ピコフの「バミューダ」の審査員特別賞といい、今回のオタワはエストニア一色でした。[1998]
(山村浩二 旧「ヤマムラアニメーション」ホームページより)


関連サイト
オタワ国際アニメーション映画祭(カナダ)>詳しい情報公式サイト

オタワ国際アニメーション映画祭1998