明日から1週間、オタワ国際アニメーション映画祭に行ってきます。いつもメープルが赤く色づく頃の開催で、残暑の日本から一気に秋深いカナダへの旅になります。コンペ作家として参加するのは、審査員で参加するのに比べて少し気楽です。
コンペ作品で気になるのは、スチールの印象や過去の作品、評判などから、昨今あちらこちらで受賞が続いている『Everything Will Be OK』(Don Hertzfeldt)、『パニック・イン・ザ・ヴィレッジ』のベルギーの二人組の新作CM『Cravendale 'Out of Stock'』『Cravendale 'Last Glass'』 (Pic Pic Andre)、『ヴェイツェンベルグ・ストリート』のエストニア、カスパル・ヤンシスの『Marathon』、NFBの『Paradise』(Jesse Rosensweet) 、イギリスの『The Old, Old, Very Old Man』(Elizabeth Hobbs)、ドイツの『Come on Strange』(Gabriela Gruber)かな...
コンペの作品はほとんど見た事がないものばかり、見知らぬ傑作に出合えるのが楽しみです。また可能なら現地からレポートを書きたいと思います。[2007.9.18]
オタワ2日目
初日の夜オタワに到着、時差と飛行機の疲れで、上映鑑賞、オープニング・パーティーは辞退。
今年から、例年のメイン会場のアートセンターが上映だけになり、事務局やブースなどはあちこちに分散、ちょっと中心を欠いた感じで、寂しい。フェスティバル2日目、11時からナショナル・ギャラリーで今年の審査員の一人でもあるジョアンナ・クインの回顧上映「Joanna Quinn Retrospective」へ向かう。少し遅刻したが、まだフェスティバル・ディレクターのクリス・ロビンソンがプログラム紹介をしている所だった。いつも彼のイントロデュースを見るのが楽しい。その後、ジョアンナが各作品を紹介してから、6本の短編「GirlsNight Out」(86)、「BodyBeautiful」(90)、「Elles」(92)、「Britannia」(93)、「Wife of Bath(Canterbury Tales Pt.1)」(98)、「Dreams and Desires-Family Tales」(06)とコマーシャルを10本ほど上映。午前中だがほぼ満員で、観客は若い学生が多い。ジョアンナの作品の特長は、鉛筆のラフなラインで、肥満なおばさん(どうやら自分の母親がモデル?)達の、現代的でちょっとお下劣な会話をベースに、達者な作画力によって、時にグロテスクに、時に愛情も込めて、現代の女性達を描き出す。昨年のザグレブとオタワのグランプリ作品「Dreams and Desires-Family Tales」は、何度見ても完成度が高い。この作品のクオリティにいたるまでの彼女の軌跡を俯瞰できてよかった。以前広島でも入選していた「Britannia」も好きだ。
14時から大使館でのレクチャーの下見と事前打合せの為に日本大使館へ。
15時から20本のカナダ特集「CANADIAN SHOWCASE」を結構面白く見る。11本がワールド・プレミアという最新作ばかりのプログラムで、NFBの作品、特にマイケル・フクシマさんのプロデュース作品が多かった。後半は時差ぼけで、上映が始まると寝てしまい、拍手で起こされ、また始まると寝てしまうという状態。それでも夢うつつで見た物で印象に残ったのが「One」(07/Diego Stoliar)、「Drop」(07/David Seitz)、「The Tourists」(07/Malcolm Sutherland)、「The Occupant」(06)/Elise Simard)、「Long Live Film」 (Vive le film)(06/Madi Piller)、「Balloons」(07/Jonas Brandão)など。若いディレクターが多く、絵や作画、音の構成など基本の部分の質が高い。同じ若い作家の作品でも、日本ではコンセプトやらテーマやら、なんだか考えすぎて、結局は、技術が伴わず最終的に作品が混沌としてしまっている場合が多い気がした。基礎を学べる教育の不在とプロデューサーの不在がひとつの原因ではないかと思った。
夜は、日本人ゲスト、富岡さん、ナガタさん、モンノさんと共にカナダ大使ご夫妻主催の夕食会に招待され、大使公邸で優雅な晩餐をごちそうになる。[2007.9.21]
オタワ3日目
映画祭3日目。10時から上映会場のひとつ街の映画館Bytowne Cinemaで「When Art Meets Industry(芸術と産業が出会った時)」と題したアメリカUPA特集の「The Genius of UPA :The Designers(UPA の天才達:デザイナー)」を見る。ザグレブでも昨年UPAの特集が組まれていたが、再評価の機運が高まっているのだろうか。確かにいま見ても面白し、勉強になる。他に「先駆者」「ディレクター」「遺産」のプログラムが組まれている。UPAの最大の特徴は、簡略化されたそのデザイン性にある。何度か見た作品でも、今回デザイナーの違いに注目して見るとまた発見があって、勉強と刺激になった。アニメーションを勉強する人は必ず見た方がいい、見るべき。
昼食は、大使館の塚田さんとオタワで草月流のお花を教えながら、ボランティアでテレビのレポーターもしているという綱川さんとジャパニーズ・レストランでラーメンをご馳走になる。その後綱川さんのおすすめで、近くの画廊でチェコの画家Adolf Bornの展覧会を見た後、アニメーターズ・ピクニックに合流する。上の写真は、恒例のハローウィンのカボチャ彫刻コンクールの受賞発表。ピクニック中にアニメーター達が、自分のセンスを発揮してニュークなカボチャのキャラクターを彫り上げる。写真の左に立っているのが、フェスティバル・ディレクターのクリス・ロビンソンとその息子。右にいるのが、ちょっと重なってしまったが、カボチャ審査員、ジョアンナ・クイン、エレーヌ・タンゲ、ジョージ・グリフィンの豪華メンバー。
時差ぼけで昼寝をしたら、19時からのプログラムに遅刻して、タクシーでもう一つの上映会場、国立美術館へ向かう。4本見逃したが、その簡略化されたデザイン性は、UPAやザグレブフィルムにも影響をあたえ、メディアと芸術の間の壁を抹消したという、雑誌『ニューヨーカー』のイラストレーター、ソール・スタインバーグからの影響を受けたアニメーションのプログラム「Saul Steinberg and Animation」を見る。ジョージ・グリフィンのキューレイトによる上映作品は、とても良かった。アニメーション・マインドをもったイメージの洪水とシンプルさの共存が楽しく、愛すべき作品郡。『The Doodlers』(75/Kathy Rose)、『Diagram』(66/Daniel Szczechura)、『Diary』(74/Nedeljko Dragic)、『Feeling My Way』(97/Jonathan Hodson)など、懐かしい作品、未見の作品いろいろだった。『The Doodlers』はもう一度見たい。
21時からメイン会場のナショナル・アート・センターの2,000人収容できる大きな会場Southam hallで「Short Competition 3」短編アニメーションのコンペテイションだ。昨日会場の事で、中心を欠いたと書いたが、週末からここにアニメーション・ショップや企業のブースが集まるので、昨日までは、別々の会場にあっただけでした。今年の短編部門の審査員は、 Bruce Alcock(カナダ)、Ruth Lingford(英)、Joanna Quinn(英)。学生、実験、Web、ナラティブ、コマーシャルと全ての短編のカテゴリーが混在して上映される。カフカの上映があるので、2階のボックス席に来加しているコンペ監督が集まって座った。しかし上映ミスで『カフカ田舎医者』の前半2〜3分音が出ないまま上映。やり直し無し。果たして観客にちゃんと感じ取ってもらえたのか、もう一度同じコンペプログラムの上映はあるが、ショックだった。ほんとに上映は何が起こるか分からない。日本人の富岡聡さんの『Exit 2』(06)も上映、強烈なギャグの連続にかなり笑いを取っていた。さすがに2,000本以上から選ばれた作品は、どれも個性的で面白く、以下印象に残ったのを羅列すると、高校生の作品『Herbert』(07/Aven Fisher)は、かわいいアイディアをうまく構成していて大きな笑いに包まれた。イギリスで僕が審査した時の学生部門受賞作『t.o.m.』(06/Tom Brown & Daniel Gray) は、笑いの中に、かなり痛い学校でのいじめ問題を忍ばせた印象的な作品。『L'eau Life』(07/Jeff Scher)はセンスがよく、見ていて心地のいいwebアニメーション。『Apnée』(07/Claude Chabot)は、静止したCGの空間をカメラが回り込むとアングルが変わる度に少しずつ事件が進む実験的な作品。『I Met the Walrus』(07/Josh Raskin)はデザインセンスがとてもいい。作者の顔写真は若すぎるけど、実際若い青年だった。『Cravendale 'Last Glass' 』(07/Pic Pic Andre)は、相変わらずのノリで面白い。この人たちはデザインがしっかりしている。こちらも相変わらずの『Marathon』(06/Kaspar Jancis)。以外な展開と関係性の連続で見せて行く。『Teat Beat of Sex』(07/Signe Baumane)は、男性器の大きさ、マスターベーションなど現代の性の問題をユーモアたっぷりに、でもまじめに描いた女性監督の作品。
昼寝をしたせいで、沢山書けた。明日は、午前中Meet the Filmmakersに出席、午後から日本大使館でレクチャーがある。[2007.9.22]
オタワ4日目、5日目のレポートをと思っていましたが、それどころではないです。
『カフカ 田舎医者』がオタワ国際アニメーション映画祭のグランプリ(Nelvana Grand Prize for Best Independent Short Animation)に選ばれました!凄く嬉しいです!
残りの映画祭レポートはまた落ち着いてから。
発表の2時間前、受賞を願ってくれていたフェスティバル・ディレクターのクリス・ロビンソンとすれ違ってしまって、その時彼がものすごく複雑な表情を浮かべて黙っていたので(当然この時点で彼は、結果を知っている)、どっちの意味か急に気になって、ちょっと緊張しながら、受賞発表に向かいました。3階のホテルの部屋から、下に向かうエレベーターのG(1階)を押したのになぜか最上階の11階に行ってしまい、そこには誰もいませんでした。このエレベーターは時々変になるのですが、着いた日も何度押しても1階に行かず、2階に何度も止まってしまう事がありました。
会場に着席すると、過去2回グランプリを取っているフレデリック・バックの息子さんが偶然隣に座って来てびっくり、息子さんとは初対面だけど、お父さんの話をしながら、授賞式が始まるのを待つ。
各賞が順に発表され、『カフカ 田舎医者』の入っているNarrative Short Filmのカテゴリーの中で、一番気になって凄いと思っていたパペット・アニメーションの『Madame Tutli-Putli』(07/Chris Lavis & Maciek Szczerbowski)がカテゴリーの第一位と発表された時、これはと思った。「...Franz Kafka's Country Doctor.」のアナウンスで壇上へ。スピーチの最後で体が震えて来ました。
さっきまでクロージング・パーティーでみんなにお祝いの声を掛けられていました。
いまはとても満足感に包まれています。
この映画を実現してくれた松竹の皆様、制作スタッフ、オタワの審査員、クリスはじめフェスティバルのスタッフ、そしてオタワの観客に感謝します。
ありがとうございました!!
明日の朝日本へ向かいます。[2007.9.24]
オタワ4日目
遅くなりましたが、オタワ・レポートの続きです。受賞結果が出ていますが、一応当日のメモから書き起こし、その日の臨場感のままに書きます。
オタワ4日目。NFB主催のMeet the Filmmakersに出席。数名のコンペ作家への共同質問会。はじめ司会者が各作家にそれぞれ質問して、あとはフリーの質疑応答になったら、ほとんど『カフカ田舎医者』への質問だった。伸び縮みする動きは3DCGをガイドに使ったのかと聞かれたが、全く使ってないと答えたのだが、みんな信じられないといった反応だった。会が終わってからも何人にも話しかけられた。ジョージ・グリフィンさんも話しかけてくれて、実は自分も『田舎医者』をアニメーション化しようと試みたが、断念したとの事。あなたのは素晴らしいできだと。やはりアニメーション作家を刺激するストーリーなのだろう。『頭山』の時も古川タクさんから同じ事をいわれた。
11時からBytowne Cinemaで、「Short Competition 1」を見る。
『The Old, Old, Very Old Man』(07/Elizabeth Hobbs)、イラストのテイスト、動き具合もいいが、セリフが多くきちんと把握できなかった。
『Golden Age』(07/Aaron Augenblick)、今回ある意味一番印象に残ったかも。短いシリーズで「アニメーション産業」を強烈にパロディーとして描いた作品。特定はしてないか、ディズニーや、ジャパニメーションやコマーシャルの人気キャラクターのそれと臭わせる設定で、それぞれの人気アニメーションのキャラが実在していたと仮定して、その人生の繁栄と衰退をニセ・ドキュメンタリーとしてでっち上げている。ヒットラーや昭和天皇、麻薬、病気、スキャンダルなどちょっと日本のテレビでは放送できないような危ないギャグ満載。合成写真や、古いフィルムやビデオの質感など凝った映像も楽しい。(Grand Prize for Best Commissioned Animationを受賞した。)日本からのコンペ作家『OOIOO 'UMO'』(2007/後藤章治) は、作者自身が音楽もプロデュースしているそうで、音楽の印象は強かった。(Best Music Video賞を受賞。)
他にはあまり印象に残る作品がなかった。
もし映画祭でオタワに来るのならぜひと在カナダ日本大使館の米原さんから依頼された、「山村浩二 短編アニメーションの創造」と題した日本大使館での講演会が午後2時から。西村大使夫妻も最後まで聞いていただき、嬉しかった。講演は、得意じゃないのに「うまかった」とか「よかった」とか言われると悪い気はしない。質疑応答もまずまず活発で、今回の旅の一つの大事な仕事を無事終える。
また昼寝をして、ひとつプログラムを見そびれる。
夜、ナショナル・アート・センターのSouthan hallで「Short Competition 5」、このプログラムで、僕の『グリンピース・校長先生とクジラ』も上映されるので、駆けつけ、なんとか間に合った。
『Lapsus』(2007/Juan Pablo Zaramella)、黒と白の空間をうまくアイディアに取り込んだアニメーションならでは楽しい作品。結構すき。
『Lightning Doodle Project 2007 (PIKA PIKA 2007)』(07/ナガタタケシ、モンノカズエ)、昨年も同じワークショップを元に作った『PIKA PIKA』が、オタワで特別賞を受賞しているナガタタケシとモンノカズエによる2007版PIKA PIKA。ペンライトで空間に絵を描いてそれをアニメートする、光の線による軌跡で絵を描く所がとってもアニメーション的で、センスのいい作品。
『Framing (Bildfenster / Fensterbilder) 』(07/Bert Gottschalk)、シューベルトの曲とモノクロの映像が美しい、8ミリフィルムを35ミリで再撮影したドイツの実験的な作品で、心地よかった。(Best Experimental/Abstract Animation賞を受賞)
『Madame Tutli-Putli』(07/Chris Lavis & Maciek Szczerbowski)、これは今回一番驚いた作品。映画祭で何度かご一緒したことのあるNFBのプロデューサー、マーシー・ページさんがプロデュースだったのも嬉しい驚きだった。新人の若いカナダ人男性、クリスとマシェックによる脅威の人形アニメーション。CGの合成も使われているが、基本的に人形の動きは駒撮りで、ここまで表情が出せるとは。ストーリーは後半、多少不満もあるが、テクニックだけで十分すごい。(Best Narrative Short Animation Under 35 minutes賞受賞。)
『Pearce Sisters』(07/Luis Cook)、フラッシュ・アニメーションかと思って見ていると、3DCGもうまく混合されて、とても達者だと思って見ていたら、アードマン製作と最後でわかり、納得。ちょっとグロテスクで悲しいストーリー、グラフィクの力の強い作品。
『Battle of the Album Covers』(06/Rohitash Rao & Abraham Spear)、古今のロックのLP、CDジャケットのグラフィック同士が死闘を繰り広げる、もーめちゃめちゃくだらなくて、笑えるアニメーション。プログラムの中にはこういうのも必要。
『Everything Will Be OK』(06/Don Hertzfeldt)、以前見た他の作品も面白く、これについてもいくつかいい評判を聞いていて、受賞の情報も聞いていたので、期待したのにもう一つ。会場は結構笑いがおこり、とても受けている様だが、延々と続く英語のナレーション、ストーリーはなんとかキャッチして見ていたが、僕の英語力では笑えるほど理解できない、と思っていたが、あとで通訳の星野さんや、何十年とこちらで生活している日本大使館の米原さんなどに聞いてみても、どこが面白いのか分からないという。笑いのつぼは文化的なギャップが大きく影響する様だ。[2007.10.5]
(山村浩二 ブログ『知られざるアニメーション』より)
関連サイト
オタワ国際アニメーション映画祭(カナダ)>詳しい情報>公式サイト
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