01 A Sunny Day (Gil Alkabetz)

『愛のために死す』や『スワンプ』でお馴染みのアルカベッツ。今回は明確に「子ども向け」の作品。人間たちに邪魔に扱われる太陽が上り沈むまでのお話。映像スタイルは線画ベタ塗りの伝統的カートゥーンだが、その作りは容赦ない。太陽は東から上って西へと沈んでいく。その位置によって全体的な色彩だって与える熱だって変わっていく。なぜ容赦ないかといえば、実際の太陽の変遷に沿って物語が展開していくというから。もちろん戯画化は行われているが、基本的に嘘はついていない。光が強烈に容赦なく刺してくる、太陽から思わず隠れたくなってしまう広島で観てこそ活きる作品なのかもしれず、その点からすれば何かしらの賞をとらなかったことは残念。おそらく見た目で損している。ある種の作品は賞を取りにくい。
作品公式ホームページ
02 Riverwind Casino Card Trick (Aleksandra Korejwo)
今回はCMが結構多くコンペインしているが、その最初。着色した塩でアニメーションを制作するKorejwoさんのCM。砂とも絵具とも粘土とも明らかに違う運動感があるので、わざわざ塩にこだわる理由もなんとなくわかる気がする。可塑性がある素材なので当然メタモルフォーゼが主になる。まさに流れるように展開する30秒。
作者公式ホームページ
03 Rain Down from Above (Ivan Maximov)
Animations界隈ではもはやお馴染みのイワン・マクシーモフの目下最新作。Wind Along the Coastに続く「気まぐれな自然との共存」シリーズ。EIZONEでのトーク時に少し話したが、このシリーズの見所は、キャラクターたちの上に的確に分け隔てなく重力が乗っかってくるところ。A Sunny Dayのように、自然の法則を正確に反映させることが作品の強みとなっている。(アニメーションにはそういうアプローチもあるんですよね。)ただ大画面で観て気付くのは、キャラクターたちとその周辺という微視的な視点においては有効な、世界を的確に反映したがゆえの有機的な感覚が、作品全体の巨視的な視野においては失われてしまうということ。具体的に言えば、背景の実写との合成の仕方に相当問題がある。なぜ画面のすべてのものに対して均等に注意を払えないのか? ここらへんが、賞レースに絡んでくることのできない原因か。人間の表情も少し弱い。マクシーモフの作品は良いところと悪いところの差が激しすぎる。おそらく、本人があまりに好きなようにやりすぎているからなのだと思う。自分の魅力を客観的に理解していないのではないか。なんとも口惜しい一本。
作者公式ホームページ
04 Dji Vou Veu Volti (Benoit Feroumont)

許されぬ恋と知りながらお互いを思う心を捨てられない二人の情熱的な恋の物語。男は屋敷にそっと忍び込み女の部屋の下で「アイ・ラブ・ユー」と歌いつづける……フィルムの質感を画面上にあえて振りまき、古き良き映画およびアニメーションを思わせる語りのスタイルをはじめのうちは展開する。それが時代錯誤的なものでなく、メタな視点に立った戦略だとわかるのは、字幕が突如としてキャラクターを構成し、声の発し手である男を裏切りはじめるとき。自己言及的でパロディー的な3DCG作品は数あれど、ここまできちんと自分の手法を客観的に見つめ責任を取れている作品はなかなかないのではないか。退屈せずに観れた。
作者公式ホームページ
作品公式ホームページ
05 Lapsus (Juan Pablo Zaramella)

白と黒だけの世界。アニメーションの約束事をうまく逆手にとり、好奇心がもたらす破滅物語をうまく描き出している。主人公をシスターにしたのがおそらく大正解なのだと思う。一線を超えることを許されない、一定以上の大きな存在を疑うことを許されない立場であるシスター。そのリミットを超えてしまえば、待っているのは信念をも超えた深淵の領域であり、その闇へと足を踏み入れてしまえば彼女にとっての現実は崩壊する……そんなふうに読めなくもない。破滅をもたらす大ラストに至るシスターの心理描写が少し弱いので、最後が無理矢理っぽくなってしまうのがもったいないところ。
作者公式ホームページ
06 Bare (Andy Lyon)
ヒゲ剃りを失敗したクマさんのお話。中途半端に剃るのであればすべてを剃ってしまえ、という彼の判断が、みな同じような格好で同じような生活を日々送っていく普通のクマさんたちを怯えさせる。さあここからどう物語を展開するのか……?と期待が高まってきたところで作品が終わるのでどうも不完全燃焼。展開があまりに図式的・典型的すぎませんか。
作品公式ホームページ
07 Lullaby (Andrey Zolotukhin)
単なる実写加工なのかそれとも繊細なアニメーション表現なのか。おそらく前者。どちらにせよそれほど趣味の良くない映像。物語がきちんと理解できなかったので間違っているかもしれないが、子どもを授かった女性がかつて自分が幼かったころのことを思い出す物語? 子であることと親であることが交差する? 上を見上げる仕草や、人形のように吊られるというモチーフ。親は子を生み子は親になり子を生む。無限に続くであろう営みのなかで、人間はその一つか二つ、多くて三つの水準を体験することしかできないので、どうしても操られているのではないか、という感覚(つまりすべてを見通せないという感覚)が生まれてしまう。テーマが大きいから自然と言葉は出てくるが、この作品自体は別に大したことない。
08 Dreams and Desires -Family Ties (Joanna Quinn)

友人の結婚式の撮影を引き受けた典型的ジョアンナ・スタイルの太っちょの女性が起こす数々のトラブルを、彼女が撮影したデジタルビデオカメラの視点を借りて描き出す。べらぼうにうまいアニメートで、観ているものをぐんぐん画面に惹き付ける。ナレーション過多でしかも早口だから何言っているのかさっぱりわからないけれども、映像だけで納得させる質。でもたぶん会話を理解できている方がさらに楽しめるのだろうな。ラストなんかジーンときちゃうんじゃないだろうか。今回はじめてフィルムで観たけれども、「迫力があってよかった」という感想と、「とても一昨年に作られた作品とは思えない」という二つの感想が同時に浮かぶ。DVDだとそういうことは思わないけれども……まあ、彼女の絵柄自体、結構な時代性を感じさせるものなので……いや、面白いですよほんとに。
作者公式ホームページ
09 Birth (Alê Abreu)

だれかが鳥の絵を暴力的な筆致でラフに描いていく様子(実写)にかぶさり、その鳥がかごの中でばたばたとするアニメーションが流れる。描くことのバッションが鳥のアニメーションというかたちを取って物質化される。かたちになった熱情は観ているこちらも熱くさせる!! 最後のネタばらし(人間の頭がカゴになっており、鳥はそこから飛び立っていく)はどうも賛否両論分かれるところらしいが、俺はこれ以外の終わり方はあり得ないのではないかと思うので「賛」の方で。フェスティバルでこういう作品と出会えると非常に嬉しい。思わぬ掘り出し物を見つけてしまったな、という感慨が襲う。
作者公式ホームページ
10 KJFG No.5 (Alexey Alekseev)

森の中でセッションを繰り広げるクマ、うさぎ、狼。狼はすぐに興奮しすぎてしまって、他の二人とあまり合わない。でも彼は本能的なミュージシャンなので……ネタばらししない方がいいと思うがネタばらししたとしても楽しめるのではないか。なぜかといえば、タイミングの取り方など細部にまで配慮の効いた、非常に良く出来た隙のない小品だから。
スタジオの公式ページ(全編視聴可)
11 Candid (Zepe)

男への愛情を持て余し憎しみや苛立ちに転換していく女と、彼女から距離を取り彼女を操ってきた男の話。カメラと被写体の距離は、互いの互いに対する距離感をそのまま反映している。女の全体像は映らずかなりのクロースアップ。対して男は全身を写される。女性の切迫感と男性の引いた距離感。いつもであればきちんと機能するはずの慰めはこのときばかりは機能せず、女は死を選ぶ。そのもっともドラマチックな出来事は男の場所から極小的に写されることになるのだが、最終的には、カメラの保つ遠い距離を超えて、感情は引き出され揺さぶられていく。良作。
12 Ten Thousand Pictures of You (Robin King)
カメラマンの女とその彼氏の別れに基づくあれこれを、ピクシレーションの力技で描ききる作品。なんとなくで構成しているので(「撮る」という行為をもっと有機的に絡ませることができたのではないか)、映像自体が持つスピード感や力感以外になにもない。興奮はすれど、非常に虚しい気持ちになる深みのない作品。
作者公式ホームページ
13 X & Y (Steve May)
特撮ヒーローたちがかわいいネコちゃんにいかに騙されるか。作者ご本人がマッチョで、あたかもアメコミに出てきそうな感じで、それには好感を持ちました。でもそれだけです。
14 Lavatory- Lovestory (Konstantin Bronzit)

トイレおばさんの恋物語。シンプルな描画スタイルながら、感情の機微を非常に良く描ききった作品。『世界の果て』で見せたような細かいディテールとアイディアを結びつける力を、うまいこと一つの物語を語ることに結びつけている。……作品を観ているうちは非常に楽しんだのですが、なぜか言葉が沸いてこない。保留でお願いします。もう一度観たいです。今でも良い余韻は残っていますよ。
15 Abidged (Arjun Rihan)
橋桁と橋桁との恋物語。うまくいってよかったね。うん。
作者公式ホームページ
16 『カフカ 田舎医者』(山村浩二)

レビューについては詳細なこちらをどうぞ
良作が揃う一日目であっても、やはり頭一つ抜けている。
作品公式ホームページ
17 The Street Cleaner on the Moon (Konstantin Golubkov)
覚えてないです、すいません。コンペは前後の作品によってだいぶ印象が変わりますから……
18 The Tourist (Malcolm Sutherland)
前回の話題作かつデビュー賞受賞作であるBirdcallsの作者、サザランドくんの新作。太陽は等しくみなを照らし、旅行者たちの肌を焼く。うーん、地味な作品……マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットのThe Aloma of Teaが観る人全員に「あれっ?」と思わせたような感じで、この作品もみなを拍子抜けさせたのではないでしょうか。まあ、本人が自分に抱くイメージと他人が期待するイメージが同じことなんて、滅多にないですからね。長い目で。別に悪い作品ではないですから。
作者公式ホームページ(全編視聴可)
>2日目へ
関連ページ
広島国際アニメーションフェスティバル公式ホームページ
|