59 Prof Nieto Show (Luis Nieto)
ニエト教授による生物の授業の形式(実写)をとった、サッカーをする珍しい虫のお話(アニメーション)。特に出来が良いわけでもなく、どこで笑っていいのかさえ分からない。いやあ、困った困った。
作品公式ホームページ(一部視聴可)
60 The Tiny Fish (Sergei Ryabov)

目の前で釣られていった魚に突如として憐憫の情を抱き、その行く末を想像してしまうことになる少女の話。切り絵アニメーション作品。良心的な作品であることはわかるのだが、善悪の図式があまりに明快すぎることが非常に気になる。もしかすると良心という隠れ蓑のなかでぬくぬくとして何も考えておらず、ものすごく典型的なものの考え方を検討することなくそのまま作品に投入していってしまっているのではないか。悪を悪として描くということについての妥当性を問題としているわけです。子ども宛てに制作するのであれば、なおさらそれを気にしなければならないのでは。正直あまり納得いきませんでした。丁寧な作品だとは思いますが。
……と再び読み返してみたところで、子どもが見た世界だからこういう描写でもいいのかな、とちょっと思いはじめました。でもちょっとヌルいことには変わりないですよね?大人が想像する(ノスタルジーを抱く)子どもの世界、という感じ。
61 Sony Bravia "Play Doh" (Darren Walsh)

ソニーのテレビ、ブラヴィアのCM。ニューヨークの街を粘土のウサギたちがわらわらと走りまわり、合体して、巨大なウサギになったり大波になったり。実際に街角で撮影した、ギョッとするような作品。後半の波→流氷→巨大ウサギ→四角という流れは観ていて非常に気持ちいい。今回のコンペ、CMものにアニメーションとしての質感が優れているものが多かったような。一般作家の方も、負けないようにしないといけませんよね。
62 Grrrr... (Grigoris Leontiades)

冒頭から「結構良い動きをしているなあ」と感心させられたこの作品は、父親の真似をする少年と、彼のことを気にしているようには思えない父親の話。悪夢のパートは正直言って浮いていたけれども、無言で二人のあいだで心が通じるラストは少々感動的。
スタジオ 公式ホームページ(Broadcast&Filmで全編視聴可)
63 つみきのいえ (加藤久仁生)

上がってくる水面から逃れるため、空の方へと家を建て増ししていく老人のお話。
次第に水位を上げてくる記憶の海に潜っていくという設定は良いのだが、設定だけであるという印象。おばあさんとの思い出の描写がとにかく弱いのだ……なぜ老人が老体に鞭打って家を積み上げていくのか、その理由がなかなか見えてこない。(もちろん室内の写真などから理性を最大限に動員して判断することはできるのだが、「伝わって」はこない。)老人がおばあさんとの思い出に重みを感じているようには思えず、それゆえに、積極的な生も死も選ばず、ただ惰性によってのみ積み上げ作業を行っているように感じられる。
アイディアはわかるのだが、それをうまく演出しきれていないのではないか。
アヌシーでグランプリを取ったことは当然知っており、予告編を観た限りでは期待できそうだったし、「泣ける」という話だったので批判的な目を消してとにかく作品に没入してみようと思ったのだが、上記のようなことを考えてしまって、結局まったく入り込めず。
正直言って、そんなに出来はよくないな、と思ったので、この作品が広島でも大きな賞を取ったことにびっくりしているというのが正直なところ。
なぜ評価されたのか、その理由を考えてみたのだが、『つみきのいえ』は、観客が勝手にいろいろなことを想起することを許す作品なのではないかと思った。この作品を評価する人は、作品「自体」をきちんとみておらず、自分の思い出やノスタルジー、もしくは過去の似たような作品のデータベースを検索して(検索のためのタグは実に多く付いている)、勝手に感動しているのではないか。
「泣いてください」という声がきこえてくる音楽と、海ほどの重みがあるおばあさんとの思い出を「ワインをチーン」で片付けてしまっている呆れるほどの軽さ。この二つだけでも致命的ではないのかと思う。作りの厳密さ・容赦なさが足りない。(アルカベッツのところで言ったようなこと。もしくは岡本忠成の作品に感じること。)
そんなわけで、『つみきのいえ』は偉大なる「なんとなく」作品、雰囲気ものの作品である、ととりあえず評価したいと思います。
作品公式ホームページ
64 Office Noise (Mads Johansen, Torben Søttrup, Karsten Madsen, Lærke Enemark)
特になにもないです。
65 2 Metros (Javier Mrad, Javier Salazar, Eduardo Maraggi)
タイトル通り、巻き尺と物差しのあいだの物語。「広島コンペティション入選」などといきなり自慢を始めるスタートにまずつまづく。コンペに入ってることくらい知ってるよ。ここにいるんだから。作品自体も全体を通してみると冗長さは否めず。ラストでクレジットが出始めてからも非常に長ったらしい。人にみせるという意識が欠如しているのではないか。あんまりしつこいと嫌われちゃうよ?
スタジオ公式ホームページ(全編視聴可)
66 Kroshechka-Khavroshechka (Inga Korzhneva)
またしてもピロットの「宝の山」シリーズ。当然ながら今回もナレーション主導。物語内容も、この話に馴染みのない文化圏の違うわれわれにとっては……いくら優れたシリーズでも、いくつもみせられると……あんまりしつこいと嫌われちゃうよ? 孤児となりいじわるな継母やその娘たち(一つ目、二つ目、三つ目の三姉妹)にいじめられるクロシェチカ-バブロシェチカが、牛の耳の中にいる死んだ両親たちに励まされながら最終的にしあわせな結婚にたどりつくというお話。このシリーズは、物語があらかじめ決まっているわけなので、見所といえば「いかにうまく演出するか」というところかもしくは、民話ならではの超絶的な展開を楽しむかしかないかなあ。このシリーズは全体的にアニメートのリズムが良いので、基本的にソフトウェアの計算におまかせして動きを付けていると思うのだがそのやり方が強く主張しがちなデジタル臭さ(すべてを均等に動かしてしまう感じ)をうまい具合に隠してしまっている。前回来日していたエロ親父ミハイル・アルダシンの作品をはじめて観たとき、「デジタルだろうが関係ねえ」と言わんばかりの破天荒なそのアニメートにびっくりしたが、彼の影響(もしくは指導)がピロット全土に広がっているのだろうか。
「宝の山」公式ページ
67 Lost in Snow (Vladimir Leschiov)

ラピュタでグランプリを取った、氷上での釣りを行う人達のお話。前回大会で観たInsomniaもそうですが、この人の作品、物語の作り方も非常に誠実で技術水準もレベルが高いのに、ほんとに地味。氷が割れて流氷になりはじめると、釣り人たちや彼らの住む家は方向感覚を失っていく。次第にロシアの宇宙飛行士なんかも宇宙から帰還して釣りにやってきたりして、釣り人も多様に。見た目そっくりなペンギンまで現れちゃったりして面白い。でも、やっぱりあまりに地味で登場人物が見分けられないので、観客たちもまた、この作品をどう見てよいのか方向感覚を失ってしまうのでは。
68 Breakfast (Izabela Plucinska)
粘土の背景と線画を組み合わせた独特の見た目をもった作品。平凡な日常のなかで朝食を食べる二人に突発的な出来事が起こり……という話らしいのですが。すいません、後半、ボーッとしてしまっていたらその「なにか」はいつの間にか終わってしまっていました。一体なにが起こったのでしょう? 風が吹いた? コンペティションは長丁場ですので、こういうこともあります。すいません。
作品公式ページ(予告編視聴可)
69 Dialogos (Ülo Pikkov)

今、この時代にあえて、シネカリグラフで作るという意欲的で意識的な作品。社会諷刺だったり全然そうでなかったりする非常にナンセンス(もしくはあまりに愚直なセンス)な小ネタをこれでもかと言わんばかりに畳み掛けてくる。シネカリのあの質感がとても心地よい! 考えることを放棄して簡単に言ってしまえば、アニメーションの快感に溢れた4分42秒! ここ二日間のコンペティションの低調ぶりを一気に吹き飛ばす最高の作品! エストニアの電子音楽家で、いままで何度もウロくんと組んでいるミルヤーム・タリーによるレゲエ調の曲も冴えわたっている。心の中でガッツポーズ! やったぜ!
翌日の記者会見によれば、この作品は音楽のようなアニメーションとして作られたとのこと。好きな曲は何百回もリピートして聴くのに、アニメーションはせいぜい二回か三回くらい。もしかすると、物語の存在がリピートを妨げているのではないかと考え、何百回でもリピートできるような、youtubeで観る動画のような、どこから始めてどこで終わってもいいような、そんな作品を制作することを決めたとのこと。作品の解説にはコンピュータに頼った現代社会への諷刺だと書かれているが、もしかしてシネカリを使ったのも、コンピュータに頼りがちな現代アニメーション世界への諷刺なのかと質問をしてみたところ、例によって長ったらしい俺の質問のなかで少し言及していたノーマン・マクラレンを引き合いに出し、コンピュータがなくとも優れた作品は作れるのであり、Dialogosはその意味で現代におけるレボリューションなのだ、と力強い回答。それにまた心のなかでガッツポーズ!(まあ、編集にはファイナルカット使ってるみたいだし、エストニア人アニメーターの言うことなので、あまり真に受けない方がいいかもしれないが。)
確実に今回の大会のハイライトであったこの作品への言及が『つみきのいえ』よりも少ないのはなんなので、余計なこともまた書いておきます。俺のようにこの作品に対してガッツポーズをした人間はどうやら他にもいるらしく、非常に喜ばしい事態だと思うのだが、しかしなぜガッツポーズが出てしまったのかがいまいちきちんと言葉にできない。なぜだ? ウロくんの言う通り、この作品が革命であり反抗であるからか? その意志に賛同するものが、彼とともに拳を突き上げるのか?正直なところ答えはよくわからないのだが、この作品が持っている「突き破る」ような運動性がそのヒントになるのではないか。箱庭に無理矢理放り込んでそのあとのアフターケアまでしっかりして出口まできちんと誘導してくれる作品とは正反対で、Dialogosは観客と一緒に安全な成層圏を突き抜けたのち、あとはほっぽらかし。それが良いのだと思う。そこから先は自分で考えたり感じたりしよう。
70 Guardian "Rhythm of Life" (Steve Angel)

ケロッグ社のシリアルのCM。シリアルを用いて、心電図のような波形がいろいろなスポーツの一場面を切り取ったアニメーションになっていくというもの。ありえない運動を創造するのもいいが、実際に可能な運動の本質をきちんと捉えたアニメーションというのももっとあっていいんじゃないか。(マクシーモフの近作が魅力的に映るのは、彼が的確に重力を機能させているから)。この作品は実際の動きをそのままなぞっているように思われあまり創造性を感じないので、そこまでワイワイ騒ぐようなものではないかもしれないが。
作品公式ページ(全編視聴可)
71 Lovesick (Spela Cadez)

どこかで観たことあるが思い出せない……病院を舞台にした、(おそらく)失恋によって心臓が壊れてしまった青年と、首が後ろ向きになってしまった女性の恋の始まりの物語。心臓が壊れるってのはわかるんですが、首が後ろ向きになるというのはなんなのだろうか。そういう慣用表現でもあるのだろうか。いろいろと突っ込みどころはあれど、心の状態が身体にダイレクトに反映させながら、それをうまく演出にいかして、新たな恋と心臓の誕生を丁寧に描いている作品。技術的にへたくそなのは問題だが、なかなか面白かった。
72 Bottoobahtoh (Marina Rosset)
さみしいタコ女のお話。人間たちの生活に憧れて、自らの特性(足が8本あるところ)を活かして、人工的にその暮らしを再現。それに巻き込まれる人間はたまったものじゃないですね。足はきちんと8本だけしか使わず、それぞれの足を非常にエコノミカルに配置しており、最大限ににぎやか。自分で勝手に作り上げた設定を、責任を持ってきちんと活かしきっているところがちょっと新鮮。
73 Urban 2002 (Lars Lambrecht)
鉄の質感が伝わってきますが、それだけ。来日したプロデューサーは記者会見でベラベラとしゃべりすぎ。そのせいでルッツァーティ&ジャニーニのプログラムを二本見逃したと思うと本当に腹立たしい。
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74 Proud Mouse (Natalya Berezovaya)
またしても「宝の山」シリーズ。ピロットのロゴが出たとき、会場に遂に笑いが起きた。みんな同じこと考えてたんだね。「しつこいよ!」って。意識をなくしてしまいましたので、覚えてません。すいません。この作品自体が悪いのではなく、「宝の山」シリーズをたくさん選びすぎたのが悪い。……あれ、一次の審査員にピロットスタジオ所属の監督がいるなあ。
「宝の山」公式ページ
75 Cyber (Stefan Eling)

ヴァーチャルリアリティーゲームのお話。居間のなかに据え付けられたイスに座ると、レーシング&シューティングゲームみたいなものが始まる。イスは飛行機やボートなどに変わりながら進んでいき、障害物にぶつかってしまうとアウト。最初からやり直し。本来はゲーム機のなかのヴァーチャルな出来事であるはずが、失敗を重ねるたびに、次第に現実に侵食していく。デジタル処理のあとが目立つのが非常に残念だったのだが、ゲームをやっているときの非日常感の表現、現実と微妙に折り合いがついていないような感じが、日常世界との一画面の内で対比させられつつ非常にうまく表現されているように思った。なんだか不思議な、現実の位相を揺らがせるような、不思議な感覚。新鮮な映像。
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