
「来日したカナダのコ・ホードマン氏によるワークショップ」(2000)
どもの城の「映・造ワークショップ」
昼間
こどもの城の話に戻ると、AV事業部では「映像」を中心に据えて、絵が写ったり、動いたりする仕組みにアプローチする視覚玩具作りやアニメーション作りのワークショップを実施してきまして、現在も続いています。また造形活動を専門とする造形事業部と共同で、86年から「こどもクリエイティブクラブ〜アニメ体験」という子どもたちがアニメーション作りをするクラブを実施し、2000年からは、映像の「映」と造形の「造」から命名した「映・造ワークショップ」というクラブを行なっていました。映像という枠の中だけの表現ではなくて、他の表現と映像が複合したときの面白い表現に出会って、新たにこどもたちが何かを創造していくというのが重要だと考えたんです。このクラブは2003年度まで続き、以後は夏期などに単発のプログラムとして実施する形になりました。
こどもの城が専門のセクションに別れているがゆえに、その専門性にこだわってしまうところがあったんですけど、他の表現との合体や、コラボがほんとはもっとたくさんできても良かったんじゃないかなとも思います。今から新たにそれができるのかどうか分からないですが、もっと積極的に展開してもいいという感じを一層強く感じています。
山村
そうですね、音楽と映像、とか体育と…
昼間
身体性の問題とかね。
造形事業部と一緒に実施していた「映・造ワークショップ」は、映像と造形の双方の接点となるような活動を探っていくというようなプログラムで始めたんです。そこで、どのような方向性や可能性が見出せるのか。ただ単に映像作品としてまとまった形の映像やアニメーション的な作品を作るということではなくて、作品としてはまとまりがなくてもいいから、この活動を続けていくことで見えてくるものがあるだろうと……。そして、絵画の歴史と映像表現の関係、いろいろな素材とアニメーションの関係など、いろいろなプログラムを試行錯誤して、映像と造形の接点を見つけ出すと面白い活動に発展していくんだなっていうのがこの時に得た感触でした。現在では、「図画工作」に映像表現が取り入れられる時代なっていますが、その頃はとくに造形活動に映像を取り入れたものも他ではあまりありませんでした。
他の造形のクラブから継続してこのクラブに長期間参加していた子が、訪ねてきて、すでに20歳になっていたんですけど、「芸大を受けようと、今勉強しているんです」と……。「こどもの城のクラブに参加していなかったら、そういう方向に進もうと思わなかった」と聞いて、やっぱりこどもへの影響って大きいとあらためて実感しました。
当たり前だけど、こども騙しみたいなものは通用しないわけで、真剣勝負にならざるを得ないですね。
こういう活動をやってきて、自分たちの反省での振り返りはできますが、実際にこどもたち自身はどうだったのかというこどもの方からの評価的なものは出て来ないので、こういう風に言ってもらったことは、ある評価として真摯に受け止めて、こういった活動をもう一回復活できないかなとも思いました。
また、こういう展開がこどもの城だけじゃなくて、いろんなところで出来ればいいなと思います。
山村
多分これからの需要としては、あることだと思うんですよね。
身近なところで映像機器があって、こどものいる家庭でもデジカメから始まって、パソコン、ムービーもハイビジョンで、っていう時代になって、そこにどう接するのか?
それが必ずしも表現じゃなくてもいいと思うんですけど、表現の道具として使う人も出てくればいいし、別の活用の仕方、そういったリテラシーとか。

「紙コップ人形をコマ撮りするワークショップ」(2009)
像の基礎知識
山村
あと、ぼくが最近感じるのは、基礎的な知識、この映画は絶対観ておいたようがいいよ、みたいな単純なことをまとめていかなくてはいけないのかなと思います。
昼間
はい、基礎教養的なことですよね。
それをまとめたものは確かにほとんど存在していないと思います。
ある基準とか価値観をもって提示されたもの、それを関心を持って観てみることはすごく重要だと思います。今それはまず体験出来ないですね。
淀川長治さんの解説場面をまとめたDVDが出ていたりしますけど、如何に映画を多くの人に観せようかという、そういう意図があの解説の中にはあって、それによって、映画にはこういう面白さがあるんだというようなことに見ている側は気がついたりしたんですね。そういう基礎教養的な見方を啓発することがテレビの番組の中でもあったんですよ。今は評論とか解説などは、全部「宣伝」になっちゃっている。
山村
そうなんですよね。
昼間
宣伝で有効だと見なされる評論や解説は世の中に出るけど、そうじゃないものは出ないし、ブログであったり、お勧めの☆いくつみたいなものが基準になってしまうと、それを読んで選択するような行為が、必要な10本じゃなく不必要な90本みたいなものを選択しているんじゃないかなと…
山村
それはありますよね。
お勧め度とか、誰の声か分からないネット上の声でつい選択をしてしまうっていう恐さ。
それは必ずしも平均値じゃないんですよね。逆に言えばマイノリティーだったりして、それに惑わされる危険性が凄く高くて、ある識者が選んだり推薦するっていうことの必要性っていうのは、ほんとはあるんですよね。それは必ずしも独裁的な意見ではないと思うんですよ。
昼間
だと思いますよね。
今全くないといってもいいですね。
この時代に観ておくべきものはこれ、というのは重要で、多分教育ができるとすると、そういうことだと思いますね。
山村
そうですねえ。
昼間
アニメーションを専攻している学生を対象とした大学の「映画史」の授業では、まず全貌というか、俯瞰してその歴史を大枠で示すことと、映画の表現が変わって行くきっかけとなった映画になるべく触れるようにしています。作り手として知っておくべき全体像を捉えるという方針です。ですから「映画史」でも、特定の時代や作家を研究している専門の方からすれば、とても乱暴な捉え方だと思われるかもしれないんですけど、ざっくりと広く浅くをわざと意識しています。
昔は、自分がこどもの頃には、「007の全て」とか、「ハリウッド映画全部見せます」みたいな番組をよくテレビで放映していました。短いクリップを集めて。意外とああいう断片が記憶の中に残っていたり、後でその記憶を元にして、全編を見直したりっていうことがよくありました。今ああいう番組すらないですよね。
かつてのテレビの映画番組でも、放映できる範囲の中だけでしかないだろうけど、その中での基準を設けて作品を選択していたわけでしょう。
授業をしていて、自分の中で、多分こういうことをやらなくてはいけないんだとろうと思っている点としては、ものを作る前に必要な前段階的な俯瞰、その学生が専門に勉強しているのが映像、アニメーションだとするならば、それを俯瞰してパカッと捉えられる力を付けさせることが重要なのかなって思っています。結局こどもの城でやってきたことも、対象はおもに小学生ですが、そういうようなことなんですよね。
テレビのアニメーションっていうのはジャンルのごく一部のもので、実はアニメーションは、こんなふうにいろいろなものがあるんだよという全体を知ってもらうっていうことだったんじゃないかな、って思うんですよね。
そして、いままでに関わって来た仕事のほとんどで、“いかに分かりやすく伝えるか”という方向が求められたということも、現在の授業の方針などに影響していると思います。
こどもの城でやっていたことと、大学でやっている授業は、根っこは一緒かもしれないなと。
もちろん専門的には本人が追求していくべきだと思うけれど、その前段階での。
山村
はい、必要な教育というところで。
昼間
たとえば作品制作でも「アフターエフェクツ」でばらばらの部品をタイムライン上に並べて組み合わせればデジタル切り紙アニメーションが出来るわけですよね。でも切り紙アニメーションを経験していないと動きなんかは完全にソフトウエアでの動きでしかなく、部品のサイズを変えるのもその中で縮小や拡大をしちゃう。それって面白くないですよね。
山村
そうですね。
昼間
最初にそっちじゃないだろう、っていうのがやっぱりあって、切り紙で切ったものを動かしていくことが自分で体得できないと、ソフトで動かしてしまうと、その動きはなに?っていうか、意味あるのかっていう感じがするんですよ。
最近増えているデジタル切り紙みたいなの、面白くないですよね。
簡単に出来ちゃうからやっちゃう、やらせちゃう、それはダメだと思うな(笑)。
かつてのフィルムの時代の様に、それで撮ることが技術の習得になっていて、それがクリアできないと画面のクオリティーが上がらないっていう時代がありましたけど、そこまで戻る必要はないと思うんです。それはもう今のデジタルの時代にだれがやってもある程度の画面のクオリティーが保てる。フィルムのところまでは戻る必要は取りあえずないとすると、一定の品質が保てる時代だから、そうすると中身のクオリティーの問題になるわけで。
品質を保つところが到達点みたいな、そういうのはまずいかなと。
そのソフトが使えることが到達点みたいになってしまうきらいがありますよね。
それはあくまで使えることが当然で、それで出来上がる品質が一定だとすれば、中の表現をどうするかの話なんですよね。これは難しいよね。
山村
やはり別のものを吸収しなきゃ仕方ないっていうのがありますよね…
えっと、ではこのへんで今日は終わりにしようと思います。
今日は大変長い時間お話いただきまして、ありがとうございました。
機会がありましたら、また是非お話を聞かせて下さい。
昼間
こちらこそどうもありがとうございました。
2009年12月4日ヤマムラアニメーションにて
国際映画祭の子ども向け部門に出品されている優れた作品も、その多くは一般公開されることなく終ってしまいます。どこでも見ることができるありふれた作品より、他ではめったに見ることができない貴重な作品にスポットを当てていきたいと考えています。そのためには、たくさんの作品を見て、私たち自身が優れたものを選択できる目を養わなければなりません。作品をより理解するための資料収集もかかせません。上映作品選択の最良の方法は、上映する私たちが、"映画"に真正面から向かい、しっかりした選択基準を持つということに尽きるようです。
...私たちがこれから考えなければならない課題、それは作品を見ておもしろいと感じた以上のものが与えられたかどうか、作品に描かれている内容やテーマといったものがより正しく伝わる工夫をもっと考える必要があるということです。そして子どもたちの感想や意見をアンケート用紙以上にもっと引き出すことができる方法がないかを考えていきたいと思います。
映画には、作った人のメッセージが盛り込まれています。それが見た子どもたちに伝わり、心に残るような映画上映の場をつくっていきたいと思っています。
児童手当 1994.8月号「心に残る映画上映の場を -作品選択と鑑賞方法のくふうが-」(昼間行雄)より抜粋
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こどもの城ビデオライブラリーにある短編アニメーション等抜粋リスト 5 >
こどもの城 公式サイト http://www.kodomono-shiro.jp/index.shtml
昼間行雄 Yukio Hiruma
プロフィール
1961 年東京生まれ。東京造形大学造形学部デザイン学科卒。76年から自主制作作品を8ミリ、16ミリで手掛け、86年と99年に個展を開催。85年から、〔こどもの城〕で子どもを対象とした映像教育普及活動を実践し、アニメーション・ワークショップ、展示、上映等を実施。またビデオソフトの演出、アニメーションや映画を題材としたテレビ番組の企画・構成、監修などを手掛ける。また現在は大学、高校等で非常勤講師として後進の指導に携わる。
著書
「一人で作る人のためのアニメーション講座」(洋泉社)[Amazon]
「改訂版ファンタスティック・アニメーション・メイキング・ガイド」(マガジンファイブ)[Amazon]
「アニメクリエータになるには」 (ぺりかん社なるにはBOOKS) (小出正志と共著)[Amazon]
「ユーロ・アニメーション―光と影のディープ・ファンタジー」 (Cine lesson 別冊)(権藤俊司、 フィルムアート社編集部と共著)[Amazon]
「みるとるあそぶ保育士・指導者の映像メディア入門」(編:こどもの城AV事業部/ソフトマジック)[Amazon]
ビデオソフト
「エンジョイ シネマ!」(調布市/2008)
「Introduction to Kyoto/Visit to machiya」(BOSTON CHILDREN'S MUSEUM/2009)
テレビ番組の企画・構成
「週間マニアタック〜アルタミラの遺伝子」(BS-i/2000〜2001)
「空想共和国ニッポン〜ジャパニーズ・サブカルチャーの源流を探る〜」(BS-i/2007)
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