どもの城 昼間行雄
アニメーションを伝える人 < 1 2 3 4 5 >

...私たちが優れたアニメーション作品を子どもたちに見せたいと思いたった15年前、真っ先に思い浮かべたのはカナダNFB作品の数々でした。現在では103作品の16ミリ版フィルムをフィルムライブラリーに所蔵し、毎月テーマを決めて上映しています。延べ140回を数えた上映会での入場者数は少なくとも15,000人を超えています。
 上映にあたっては見所を手短に解説することで子どもたちの期待感を高めることがちゃんと視聴させるポイントなのですが、でも作品自体がつまらなければ途中で退席してしまいます。ところが、就学前の幼児でも約30〜40分間のプログラムを最後まで楽しんでいってくれます。<マンガまつり>の映画館で見られる私語の渦や場内を走り回る子どもなどは皆無です。子どもたちは日本のテレビ・アニメの"偏食"でカナダ作品など口に入らないかのように思ってしまいますが、いやいや、テレビやハリウッド映画漬けで味覚が定かでない大人より、子どもの舌は、よほど確かな味をキャッチするんです。

カナダ映画祭2001「子どもたちとアニメーション メディア・エデュケーションの教材として最適なNFB」(昼間行雄)より抜粋



どもにどうアニメーションを見せるのか

山村
なるほど経緯としてよくわかりました。

えっと、おもな観客の年齢層は、幼児が中心、大きくても中学生くらいですね。
やっぱりテレビとか劇場ではなかなか見ることができないアニメーションがこどもの城に遊びに行って、たまたま目にすることができるというのは凄く貴重な機会になっているんじゃないかなと思うんですけど。

昼間
そうですね。実際に今は、来館する子どもたちの年齢は下がっているんですね。
開館した頃から10年目くらいまでは、小学校の高学年位がけっこう来ていたんですけど、最近は幼児の割合が凄く増えて小学校の高学年から上、中学生はほとんど減っていますね。
ひとつには、小学校高学年のライフスタイルが昔と変わって来ているのかなと。それと週5日制になりましたよね。土曜日が休みになった頃こどもの城が小学生を対象にしたプログラムをたくさん増やして、そのころは小学生がたくさん来たんですけど、やっぱり土日休みになって連休があったりするってことで、学校以外の勉強をする時間が。

山村
塾に行ったり。

昼間
ええ、こどもの城のクラブに来ている子に一週間のスケジュールを聞いてみたりすると、ほとんど習い事でうまっていたりするので、高学年は忙しいんですね。

山村
なるほど(苦笑)。

昼間
あと土日のこども達を受け入れる場所が、従来から存在していた児童館や学校がなにか教室を…

山村
学童クラブなんかがありますよね。

昼間
ええ、それもあって来館するこどもも減って来て…
やはり、幼児、小学校低学年が増えているんですね。
だけど、上映での入場者数は保護者の数も含めて、一日あたり約100人から200人くらいです。多い時で300人から500人という時もありました。こどもの城の映画劇場は、月1回のペースで開催し(通常は第2日曜日に開催)、1日に4回ほど上映していて、一つのプログラムが3作品くらいの組み合わせで、全部見れば6〜7本、一プログラムだけみても3本は見られるんですけど、その時間を20分〜30分くらいにしているんですね。
NFBの作品がどれも短いので続けて観てもちょうどあきない時間かなというのもあるんですけど。
あと、大人の先入観といいますか、当然な疑問ですが…
カナダのアニメーションがわかるのか?難しいんじゃないのか?外国語なんじゃないの?みたいな、そういう先入観が、入って来られる方にはあるんですね。

山村
親御さんの意識として、こどもの理解力を重んじていないみたいなことなのですね。

昼間
ちょっと興味があって見てみようかなって入って来られるかたは、なんでカナダ?と。またはアニメーションといえばテレビで見るアニメーションみたいなものなのかな?という感じなんですね…
前は入口にポスターを掲示してあっただけなんですけど、今は入口にスチールを掲示して、大体こういう絵柄のものなのかなと分かるくらいにはしていて、簡単な説明書きも掲示してあります。
それで、上映の前に簡単にこどもに対して、どういうアニメーションなのかを説明します。
NFBの作品のほとんどは言葉がないものですよね。購入した時にもなるべく台詞がないものを中心に選んでいったりしていたんですね。台詞があってその台詞がどうしても重要な内容を示すものは吹き替えの日本語のテープを作って、同時に再生する形でボイスオーバーをつけて何本かは見せています。だけどなるべく台詞がないものを選んでいますね。
最初に作品のバックグラウンドを説明して、例えばマクラレン作品の抽象的な『垂直線』であるとか、そういうものをただ単に見せても、何じゃこりゃ良く分からん、っていうのがあるので、マクラレンのカメラレス作品の場合は、映画のフィルムとはこんなものだということで実物を見せたり、マクラレンの制作している様子の写真なんかを見せて。明確にシナリオがあるような、物語を楽しむものではなくて、画面の中に出てくるいろんなイメージの繋がりを考えたりすると面白い作品がけっこうあるので、「何が出て来る?」「何か形が出て来るよ。」という感じで、こどもに投げかげて上映をすると、こちらも予想をしていなかったくらい集中してみるんですよ。
アンケートを必ず書いてもらうんだけど、非常に的確にこどもはその作品を見ているなというのが分かるのがあったり、小さい子は一緒に来たお家の人と一緒に書いてもらっていて、そこから親御さんも、こういう作品があるということを初めて知ったというようなことで、非常に面白かったという意見があったり。まあさまざまですけど。

山村
かなり多くの人が理解して楽しんでいると。

昼間
ええ。こういう楽しみ方が出来るアニメーションがあるんだというのを知ったという感想は多いですね。
例えば作品例を挙げると、だいたい安心して見せられるのはコ・ホードマンさんの作品とか…

山村
はじめからこども向けに作られているからですかね。


アンケートの抜粋
『ビーズゲーム』(イシュ・パテル監督)の感想
一番おもしろかったのはビーズのえいがで、ビーズのせいぶつがたがいに食べたり大きくなったりして、人間にしんかして、ころしあうのを見て、むなしい気持ちになった。(小学3年)

『スニッフィング・ベア』(コ・ホードマン監督)の感想
わざとふくろうがくまをたすけようとしているところが感動した。人形と紙でやるなんて1コマ1コマ大変だと思うし、内容もおもしろくてよかった。(中学1年)

上映作品全体に対する感想
日本のアニメと違い、言葉がなくてもストーリーが分かりやすいと思いました。他の国のアニメも見てみたいです(30歳)





どもと抽象アニメーション

昼間
はい、あと、いわば抽象映画、アブストラクトなものをどう見せるかというのを今一番取り組んでいるところなんですけど、マクラレンのさっきの『垂直線』もそうだし、このあいだ『シンクロミー』…

山村
ああ。はいはい。

昼間
あれを、今まであんまり上映してなかったんですけど、『シンクロミー』をこどもはどう見るだろうというのが興味があって、絵と音の関係ですよね、あれって。
音程が四角形の大きさの違いで表されているっていうことが、映画を知っている人だったらサウンドトラックがそれに置き換えられている、ってことが分かるから、なんとなくそういうものかってわかるんだけど、映画ってどうやって音が出てるのっていうのは、そこがわからないとあの作品の面白さはあんまりないですよね。
で、幸いなことに上映会場のスタジオはスクリーンや客席も毎回仮設で、後ろで映写機ががらがら回っていて、あそこから写しているんだぜって、こどもたちが後ろを振り返れば映写機があるんですよ。むき出しのシステムがみえるので。音はこのギザギザなんだよって35ミリのフィルムをライトボックスの上で展示したりもしました。
とはいっても、そうか音ってこうなのかって小ちゃい子が見る訳ではないんですけどね(笑)。

山村
(笑)まあ、そうかもしれませんね。

昼間
だけどマクラレンの作品のあのすごさはやっぱり…
『シンクロミー』は、ちっちゃい点々(四角)が、高い音でぴろぴろって出たり、長い線で、ブーとかって、その対比があるカットがあると、会場にいたこどもたちが、「あ、おしっこ、あ、おなら」(笑)。

山村
(笑)形とか動きの印象が。

昼間
確かに言われてみると、イメージ的にはそういう…
よくおしっこを漫画的に描くと点々って描くじゃないですか?その点々のイメージ、あーそうか、って。
これは直感的なんだよなって、かなり豊かな見方だなって思って。
結局ああいう作品って難しいからとか、分からないからって見せないっていうのもあるんだけど、そういう見方でもいいので、見せるチャンスがあって、それによってあー面白かったって、その面白がり方は本来のものではないかもしれないけどそれもいいんだよなって思ったんですね。

山村
ああ、そうですよね。

昼間
あの上映会ではこどものいろんな反応とかがあって、特別に面白い反応とかってありますね、やっぱり。
難しいとか言って帰っちゃうんじゃなくて、もっともっと見たい、ってなったりする。
「次はどんな作品やるの?」って、来られると、これはやっぱり、やっていてよかったなって思いますね。
マクラレンの作品はこどもの反応が、ストレートにでますね。
『開会の辞』とか『いたずら椅子』とかは、会場は、大爆笑。
スラップスティックの構成ですよね。
ああいう作品を日常的に見る機会って現在はどこにもないな、ってあらためて思ったんですよ。
今のこどもを対象にしたアニメーションの笑いはああいう笑いじゃないですよね。
一般的なドラマやコント、バラエティーなんかもそういうものがほとんどなくなっていますよね。

山村
今やなくなっていますよね。サイレント映画とかを親が見せない限り接する機会はないですよね。

昼間
こどもたちにとっては、初めてみたスラップスティック、もう大爆笑で、素直で。

山村
まあそうですよね。人間の身体に訴えかける、どたばたっていうのは国境、時代を超えておこすものですよね。

昼間
ええ、なのでやっぱり、その場に来ちゃったからむりやり…(笑)見せるほうが…

山村
はい(笑)。


子どもたちにソフトをしっかりと視聴させるには、見よう!という体勢作りが大切です。こどもの城では、上映する前に作品の見所を紹介したり、画面を作る方法などのバックグラウンドを分かりやすく説明する様にしています。...

...見るためのヒントを投げかけたりすることで、こどもたちの画面との向き合い方が変わってきます。「よし、見てやるゾ」という姿勢が生まれてくるので、「こんな難解な作品は子どもには無理だ」といった大人の思い込みを覆すような意外な発見や楽しみ方をこどもたち自身が見つけることもできるのです。

...映像を生活と切っても切り離せない現代では、ソフトやテレビに対して無防備だとも言える視聴の姿勢をそろそろ改める必要があり、大人自らが視聴する心構えをしっかり持って、作品を選んで見せるということを真剣に考える必要があるのではないでしょうか。

2001.10 -保育界「テレビやビデオソフトを選んで見せよう」(昼間行雄)より抜粋






が選び、見せるのか

昼間
逆にいうと無理矢理見せないと見ない時代だなと思うんですよ。
例えば今の若い人もそうなんですけど、選択して見る訳ですよね。レンタルDVDもYouTubeも自分で選択して。ちょっと前だとそういうものもないので、といってもビデオとかも無かった時代のことですが、とりあえずテレビで映画を見ようとすると、なんとか洋画劇場のラインナップの中で、とりあえず、なんかしょうがなく見たけど面白かったとか、そういう経験って結構あるかな。あとは人から見せてもらったり上映会だったりとかですね。そういうことで、見ようと思ってみたんじゃないけど見てしまったものが、すごく良かったような気がするんですよね。

山村
そうですよね。かといって僕らの時代もなかなかアニメーションを見る機会はなかったわけで、そういった映像が断片的に記憶に残っていると、後であれはなんだったんだろうみたいなものがすごくあると思うんですよね。僕もホードマンさんの『砂の城』を、アカデミー賞受賞のテレビでの紹介でちらっと見ただけなんだけど、これは見たことない映像だなって凄く印象に残って、後々興味をもってちゃんと見てみようってなった訳なんだけど、小さい頃見たあれはなんだったんだろうっていう体験は造形とかに興味をもっていく人たちにとっては大切な経験なんだと思います。
選択といっても時代のニーズにあわせたものしか流れて来ないって言う状況で消費的に見てしまう。
逆に言えば積極的にも探してはいないのかな?

昼間
それもあると思いますね。受け身…でもないかな?何ていうのかな?ま、この範囲でいいやみたいな。

山村
はい、そういう感じですね。
今の方がマニアックなものも探そうと思えば手軽に見られる時代なのに探そうとしないというか。

昼間
それは最近感じますよね。
あまりに多くあるので、逆に選ばないっていうか。

山村
そうですよね。
そういう部分で映像教育みたいなことが、こどもの城さんがこども向けに定期的に上映をやられているっていうのは凄く貴重なことだなと思っていまして。
以前の16ミリを観る会でも教育者の方が感心をもたれて来ていたんですけど、教える側もどういうものがあるのかっていうのも分からなかったりとか、基礎になる知識も得られないと。
その時にも話したんですけど、フランスの文科省が映画とか短編アニメーションを毎年10本選んで、昔日本にもあった学校上映会みたいなので、義務教育の小、中学校で強制的に見せているという、映画リテラシーをこどもの頃にやるというのがあって。そのセレクションも専門家が選んでいて、単なるカートゥーンとかではなくて、いろいろな映画祭で受賞したような今の最先端のアニメーションを選んで見せていたりして、なかなかそういう機会っていうのが日本ではないですよね。

昼間
ないですよね。
これは何でなんだろうと思いますね。
やっぱりこれは選ぶ側の問題なんですよね。

山村
そう思います。選ぶ人の人選、と選ぶシステムの問題ですよね。
政治と文化っていうところでアジア的な問題もあると思いますね。
政治的に動かす力のある人と、文化的な知識のある人たちが一致していない。
…ぼやいていても変わらないかな?

昼間
ええ。文句言ってないで自分でやるしかないんですけど。

山村
小さな活動でも地道にやらなければしょうがないのかな?って感じますよね。

昼間
そうですね。3 >


どうして私たちが、あまり親しまれていないソフトを選んで子どもたちの目に触れる機会を積極的に設けようと思ったのか?それは、子どもたちの映像作品との接し方がいわば"偏食"状態なのではないかという危惧からなのです。

...その偏食とは、子どもたちが見ているソフトはテレビで見ているアニメがほとんどだということです。テレビ・アニメの多くが、似通った絵柄のキャラクター、ケバケバしい色彩の画面、そして対象年齢がいったいどのくらいなのかが不明確なストーリーが展開します。テレビ・アニメの第一の問題点は、商業的な利益を優先させるために量産しやすい絵柄や作画方法が選ばれていて、造形的な工夫や新しい表現がほとんどないことです。...

...テレビアニメばかりが毎日、毎週、毎月と繰り返され、それを視聴することに対して、私たちは何の疑問も抱かなくていいのでしょうか。そしてテレビアニメはどの番組も胸をはって大人が子どものに勧められる面白いものなのでしょうか。
 テレビアニメ以外のものが容易に手に入らない状況なのでそれ以外の作品を子どもたちは見ることができないという"偏食"に陥っているのです。
 大人がまず視聴する心構えをしっかり持って、作品を選ぶ努力が欠かせないのです。そしてさらに、作り手の意識改革が大いに望まれます。テレビアニメの第二の問題点は、幼児も簡単に見ることができるテレビというメディアで放映するのにふさわしいかどうかという判断が作り手側に希薄なまま、アニメという表現の特徴に気が付かないまま作品を作って世の中に送り出してしまっているということです。

2001.10 -保育界「映像の"偏食"が起きている」(昼間行雄)より抜粋

アニメーションを伝える人2
 こどもの城 昼間行雄 
< 1 2 3 4 5 >