山村浩二-雑記5(2004.2‾8) |
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2004.08■アニマテーク 山村浩二回顧上映会 |
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8月27日から30日まで日本文化紹介事業として国際交流基金とソウル・アニメーション・センターの招きで、『アニマテーク 山村浩二回顧上映会』と題して、大規模な回顧上映、講演、ワークショップを行った。今月は5日から9日までソウル国際カートゥーン・アンド・アニメーション・フェスティバル(SICAF)に参加していたので二度目のソウル訪問となる。 8月27日金曜日午後キンポ空港に到着、SICAFの時一度顔合わせをしている国際交流基金ソウル支局の町田さんとキム・ヨンシンさんが出迎えてくれ、ホテルにチェックイン。 |
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16時からの開会上映での挨拶と質疑応答。入場は無料、二百席ほどの会場はほぼ満席。ソウル・アニメーション・センターは、ソウルタワーのふもとに位置するソウル市立の会員制の施設で、上映会、講演会、漫画とアニメーションのライブラリーや編集スタジオなどが利用できる。上映後に質議応答。時間が限られていたので、三つ程で終了し、隣のアニメーション・カフェ「aniway」で韓国のアニメーション関係者とビールパーティー。 |
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翌 28日土曜日、子供向け作品のプログラムとインディペンデント、CM作品のプログラムを上映。それぞれの上映前に作品解説、上映後に質疑応答。毎回活発な質疑をうけた。その後、日本のインディペンデント・アニメーションの歴史と私のアニメーション制作に関する講演会。はじめて同時通訳での講演を体験。逐次通訳と違ってリアルタイムに話せて、とてものりよく話せた。講演後もやはりたくさんの質問が出た。日本のアニメーションに対する感心の高さを感じた。 講演終了後、アニメーション・センターの別館を案内される。そこは若い作家のための貸し事務所スペースで、家賃一万円を五、六人でシェアしているので、ひとり二千円程度の家賃で自分のデスクと制作環境が持てる。安い編集スタジオなども併設されていて、大きな映画祭にはアニメーション・センターがエントリーしてくれる。ここに入るためにはポートフォリオによる審査があるが、住居兼の畳の部屋で制作している人も多い日本の作家の環境が悲しい。近々改装、別の場所にも新しいビルを建築するそうだ。日本のアニメーション界のために、同じような場が日本に必要だと思った。 |
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夕飯は、竹筒飯のレストランでアニメーション・センターの若い作家達と韓国のインディペンデント・アニメーション事情の話題で盛り上がる。センターの方向性として、今後はインディペンデントより、お金の稼げる商業主義に力を入れていく様で、作家たちから不平の声が上がっていた。アートとエンターテインメントの境は難しいし、それは対立する項目ではなく、両立しうる別のレベルにある価値観だと思うが、どちらにしろ、面白い作品を発想して形にできる「人」が育たなくては、商業主義だけ考えても先細りになってしまうのではないかと危惧している。 29日日曜日、午前中アカすりを初体験。マッサージが心地いい。日本にいるとなかなか時間がとれないので、最近海外でマッサージを受ける事が多い。職業がら首と肩、腰がこっている。美味しいサンゲタンのランチをとってから、午後アニメーション・センターで36名にワークショップ。素ぬけの35ミリフィルムに直接油性のマーカーで絵を描いていく「ダイレクト・ペイント」アニメーションのワークショップ。ひとり十五秒分のフィルムを切り分け、最終的に編集して上映、講評する。アニメーション学科の学生が多いが、まったくはじめてアニメーションをつくる人も数人いた。はじめ、題材は自由にしていたが、みんなアイデアの段階で困っていたので、「Seoul」の「S」をどこかに入れるというテーマを即興で出した。しかし、一、二時間たっても描きはじめられない生徒もいて、予定より、二時間ほど時間がおしてしまった。最後には無事全員完成し、下の劇場で上映、1作ずつ講評をする。このワークショップでは、駒の時間感覚を身につける事がねらいだ。一駒一駒逐次絵を描いていくので、アニメーション的タイミングの取り方のセンスの差が大きく出る。ずば抜けた傑作はなかったが、何人か動きの良い作品があった。 その後ディナーに、SICAFのフェスティバル・プログラマーのジニーさん、ラマバジョというアート系アニメーションのDVDやVHSを配給している会社のジャン・ミンチョイさん、韓国のアニメーション評論家のキム・ジュニアさんを迎えて、ハマグリと猪肉料理が名物のレストランへ。韓国ではアニメーション作品が外国で賞を取ると報奨金がでるそうだ。もちろん日本にはない。オリンピック選手は金メダル取るといろいろともらえる様ですが、アニメーションはやはりスポーツほど世の中には認められていないのかな。評論家のキムさんと岡本忠成さんの作品の話で盛り上がる。キムさんの奥さんは沖縄の人ということもあるが、日本語も日本の文化にもとても精通している。 |
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30日、韓国芸術総合学校でのワークショップ。韓国芸術総合学校は、四百人人受験して十五人しか入学できないアニメーションのエリート学校。機材も韓国一揃っていて、各自に一台デスクトップ・パソコンがあるほか、ワークステーション、ノンリニアの編集環境、DV、アナログ.ベーカム、デジタルベーカムまである収録機、作画台、16ミリ、35ミリの撮影線画台、モーションキャプチャーの設備から音響設備まで、ほとんど完パケのアニメーション作品が学校内でできる環境だ。この学科はSICAFやPISAF(プチョン国際学生アニメーション・フェスティバル)のフェスティバル・ディレクターとして以前から知り合いだった、パク・セヒュンさんがつくったもので、仲間の教授パク・ジャンドンさんから、「学科メーカー」だと言われていたが、確かに百四十もアニメーション学科がある韓国は、今のところ一つしかない日本のアニメーション教育環境とは比べ物にならないほど充実している。 ワークショップは「傘」「耳」「R」と三つの無関係な題材を与え、短いストーリー・ボードを制作するという課題を出した。この課題は、一駒一駒は別々の絵を、イマジネーションで繋げていって、見ているものに、動きやあらゆる感覚を伝える「アニメーション」的能力のトレーニングになるのではと思い、考案した。さすがにみんな飲み込みが早く、制作中は特に指導する必要がないほどスムーズに進行した。中にはかなり動きをつけたものが数時間で出来上がった。制作を終え、全作品を編集している間に短い講演をして、午後は講評会。まず作者の意図を計り、それが絵の展開と動きだけで、観客に内容を理解させる事ができているかどうかに重点を置き、作品ごとに助言していった。特に助言の必要もなく、そのまま作品化できそうな優秀な作品が二、三あった。 この二年程こういった講演やワークショップの依頼が多いが、自分としてはまだまだ彼ら学生達と同じ位置に立ち、自身の可能性を追求したい、教育より自身の作品制作に重点をおいていきたいと考えている為、あまり積極的に取り組めず、なるべく引き受けたくないというのが正直な気持ちだが、今回は、設備が整ったアニメーション・センターと韓国芸術総合学校の好環境でやりやすかった事、また先生、生徒、主催スタッフの熱意により、私も前向きに取り組むことができ、自分自身にとっても、とても濃厚な四日間を体験できたと思う。 ワークショップを終え、すぐインチョン国際空港へ向かう。アニメーション・センターのキム・サンジョーさん、国際交流基金ソウル支局の町田さんとキム・ヨンシンさん、後半二日間通訳をしてくれたソンさんが見送ってくれた。 主催された国際交流基金ならびにソウル・アニメーション・センターのスタッフのご尽力に大変感謝致します。 |
2004.07■ロンドン |
ナムコの企画で、ナショナル・フィルム・シアター(National Film Theater)主催の上映会と講演会「Koji Yamamura Animation World」のため、妻と2人、7月26日から8月1日までロンドンに行ってきた。 上映は1日1回のみで、ロンドン到着後余裕があったので、広島で一緒に選考委員をしたピーター・パールさんのロンドン郊外ニューミルトンのお宅にお邪魔して、夕飯を御馳走になったり、ナショナル・ギャラリー、自然歴史博物館、大英博物館、テート・モダンなど、ゆっくりミュージアムめぐりができた。どのミュージアムも入場無料なのが、文化が身近に気軽に触れられていいなと思った。 |
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今回の渡英のもうひとつの目的が、次々回作『マイブリッジの糸(仮)』の取材のためにエドワード・マイブリッジの生まれ故郷、キングストンにあるの博物館を訪ねることだ。行ってみると凄く小さな展示スペースだったが、作品のインスピレーションをもらった。 上映会前日に、スポンサーのナムコ事務所でレセプション・パーティーがあり、双子座で双児のアニメーション作家、クエイ兄弟が来てくれて、弟の(? 双児はどちらが兄か、西洋、東洋で認識のしかたに違いが有るそうだが、よくわからない。)ティモシーは二次会の中華レストランまでいっしょに。明日の上映会の後スタジオ訪問を誘われた。楽しみ。 |
ナショナル・フィルム・シアター主催で上映会ができる事は、そうないそうで、それも一番広い会場だった。空席が目立ったので、気にしてしたら、この手のアニメーションの上映の中では、入場者数が多い方で、成功だったようだ。『岸辺のふたり』のマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットさんも見に来てくれた。 |
クエイ兄弟の兄スティ-ブは、カメラの故障で上映に来れず、ティモシーがひとり来てくれて、講演終了後すぐ、会場からそう遠くないスタジオへお邪魔する。スタジオは作品のイメージ通り、アンティークに囲まれて、ほこり一つも作品になってるような繊細な部屋だった。新作の長篇劇映画のアニメーション・パートをこれから撮影するそうだ。先週まで実写部分の撮影でライプチヒに行っていたそうだ。二人でどのように作業分担するのか聞いてみたら、人形作り、撮影、アニメート、すべて均等に一緒にするとのこと。メカニカルをサポートしてくれる人が一人いるだけで、あとはほとんどすべて二人だけで制作するそうだ。帰国後、いただいたDVDで、新作短編『In Absentia』を見る。以前よりシンプルで洗練されたスタイルに感銘を受ける。 毎回、海外にいくと誰かしらのスタジオやお宅に訪問できる機会に恵まれるが、アーティストと交流するととてもよい刺激になる。 この場を借りて、Namco、JAL、NFT、FLP、特にこの企画の切っ掛けを作ってくれて、旅行中もずっとアテンドしてくれたFLPの宮田さんにお礼申し上げます。ありがとうございました。 |
2004.06■アニメとアニメーション |
アカデミー賞のノミネート以来、数々の取材を受けたり、講演をする度に話す事だが、私は自分の作ってるものを「アニメ」と呼ばず、「アニメーション」と呼んでいる。英語圏で「アニメ(Anime)」といえば、日本製のマンガアニメーションを差す外来語で、特定のカテゴリーの名前になっている。絵画的なアニメーションやクレイアニメーションを「アニメ」と呼ぶ事は、おかしい。その場合は「アニメーション(Animation)」だ。取材の校正をする度に「アニメ」と書かれている所を「アニメーション」に直している。字数の制限から記事を書く方は、どうしても短い方を好むし、日本人は総じて言葉を短くする事がすきなようで、「アニメーション」ときちんと言ったり書いたりする人のなんと少ない事か。「アニメーション」と言った場合は、一駒一駒、駒撮りで作られたあらゆる技法、話法、内容の映像を差す広範囲な意味にとれるのだが。「クレイアニメ」、「人形アニメ」というのも、私には「クレイ+日本製マンガアニメーショーン」「人形+日本製マンガアニメーション」と聞こえ、意味の違う言葉が並んでいるように違和感を覚える。どうかこれから少なくとも私の作品を「アニメ」と呼ばないで下さい。 |
2004.05■台湾国際アニメーションフェスティバル |
3日間だけだが、第2回台湾国際アニメーションフェスティバルに参加してきた。日程があわずルネ・ラルーの追悼プログラムが見られず残念だった。先月シュトゥットガルトであったエストニアのラオ・ヘイドメッツさんと再開、アニメーションの世界は狭い。数々のNFB作品の音楽を手掛けたノーマン・ロジェさんと、やはり数々のNFB作品をプロデュースしてきた奥さんのマーシー・ページさんともアヌシー以来会う。ノーマン・ロジェさんに、フランスの有名な短編映画祭、クレルモンフェランの審査で『頭山』を「最優秀サウンドトラック・クリエーション賞」に選んでくれたお礼を言う。 台湾に行ったのは初めてで、屋台や如何わしいお店、ヘビ屋さんが並ぶ夜市(ナイトマーケット)がアジアの熱気を感じて面白かった。 |
2004.04■シュトゥットガルト・トリックフィルム国際映画祭 | |||||||||||||||||||
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2004.03■Old Crocodile |
『年をとった鰐』(英語タイトル・Old Crocodile)の制作を順調に進めています。テーマは『愛と権力』(Love&Power?)、と書くとすごくベタなテーマに聞こえますが、ショヴォーの皮肉を余り饒舌にならないよう、忠実に映像化したいと思っています。ナレーションをピーター・バラカンさんにお願いして、今日(3/31)に録音しました。とてもクールででも温かい独特の声のトーンが、作品世界を良く表現できたと思っている。 映像も流れができてきて、約12分の短編になりそう。いつもは部分から制作して、徐々に全体像を掴み、音作りも最後になる事が多いのだが、今回は、はじめから全体像をかためつつ、ナレーション優先で、アニメーションのタイミングの調整を進めて行くつもりです。 |
2004.02■年をとった鰐 |
2004年に入って俄に新作が動き始めた。一つは前々から公言している、NFB+アクメ・フィルムワークス+ヤマムラアニメーション(加・米・日)共同制作の『マイブリッジの糸(仮)』(仮りの英語タイトル・Muybridge's Strings)でこちらはあと2年ほど先の完成予定。 もう一本は『頭山』の制作開始頃の'86年あたりから企画をあたためてきた『年をとった鰐(仮)』(仮りの英語タイトル・Old Crocodile)だ。こちらは原作がフランスの作家レオポルド・ショヴォーの『年をとったワニの話』(福音館書店/出口裕弘 訳)で、文藝春秋からも山本夏彦訳の復刻版『年を歴た鰐の話』が昨年発売されている。福音館書店と出口さんの承諾のもと、制作を進めている。こちらは年内の完成を目指しています。制作の詳細は追ってこのコーナーにアップします。 |
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