山村浩二-雑記5(2004.2‾8)

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2004.08アニマテーク 山村浩二回顧上映会
 ソウル・アニメーション・センター 顔写真入りの「回顧上映会」のぼりが掛かっている。
 8月27日から30日まで日本文化紹介事業として国際交流基金ソウル・アニメーション・センターの招きで、『アニマテーク 山村浩二回顧上映会』と題して、大規模な回顧上映、講演、ワークショップを行った。今月は5日から9日までソウル国際カートゥーン・アンド・アニメーション・フェスティバル(SICAF)に参加していたので二度目のソウル訪問となる。
 8月27日金曜日午後キンポ空港に到着、SICAFの時一度顔合わせをしている国際交流基金ソウル支局の町田さんとキム・ヨンシンさんが出迎えてくれ、ホテルにチェックイン。
 アニメーション・センターの上映会場と受け付け
 16時からの開会上映での挨拶と質疑応答。入場は無料、二百席ほどの会場はほぼ満席。ソウル・アニメーション・センターは、ソウルタワーのふもとに位置するソウル市立の会員制の施設で、上映会、講演会、漫画とアニメーションのライブラリーや編集スタジオなどが利用できる。上映後に質議応答。時間が限られていたので、三つ程で終了し、隣のアニメーション・カフェ「aniway」で韓国のアニメーション関係者とビールパーティー。
 アニメーション・カフェ「aniway」

 翌 28日土曜日、子供向け作品のプログラムとインディペンデント、CM作品のプログラムを上映。それぞれの上映前に作品解説、上映後に質疑応答。毎回活発な質疑をうけた。その後、日本のインディペンデント・アニメーションの歴史と私のアニメーション制作に関する講演会。はじめて同時通訳での講演を体験。逐次通訳と違ってリアルタイムに話せて、とてものりよく話せた。講演後もやはりたくさんの質問が出た。日本のアニメーションに対する感心の高さを感じた。
 講演終了後、アニメーション・センターの別館を案内される。そこは若い作家のための貸し事務所スペースで、家賃一万円を五、六人でシェアしているので、ひとり二千円程度の家賃で自分のデスクと制作環境が持てる。安い編集スタジオなども併設されていて、大きな映画祭にはアニメーション・センターがエントリーしてくれる。ここに入るためにはポートフォリオによる審査があるが、住居兼の畳の部屋で制作している人も多い日本の作家の環境が悲しい。近々改装、別の場所にも新しいビルを建築するそうだ。日本のアニメーション界のために、同じような場が日本に必要だと思った。
 ソウル・アニメーション・センターの若い作家達
 夕飯は、竹筒飯のレストランでアニメーション・センターの若い作家達と韓国のインディペンデント・アニメーション事情の話題で盛り上がる。センターの方向性として、今後はインディペンデントより、お金の稼げる商業主義に力を入れていく様で、作家たちから不平の声が上がっていた。アートとエンターテインメントの境は難しいし、それは対立する項目ではなく、両立しうる別のレベルにある価値観だと思うが、どちらにしろ、面白い作品を発想して形にできる「人」が育たなくては、商業主義だけ考えても先細りになってしまうのではないかと危惧している。

  29日日曜日、午前中アカすりを初体験。マッサージが心地いい。日本にいるとなかなか時間がとれないので、最近海外でマッサージを受ける事が多い。職業がら首と肩、腰がこっている。美味しいサンゲタンのランチをとってから、午後アニメーション・センターで36名にワークショップ。素ぬけの35ミリフィルムに直接油性のマーカーで絵を描いていく「ダイレクト・ペイント」アニメーションのワークショップ。ひとり十五秒分のフィルムを切り分け、最終的に編集して上映、講評する。アニメーション学科の学生が多いが、まったくはじめてアニメーションをつくる人も数人いた。はじめ、題材は自由にしていたが、みんなアイデアの段階で困っていたので、「Seoul」の「S」をどこかに入れるというテーマを即興で出した。しかし、一、二時間たっても描きはじめられない生徒もいて、予定より、二時間ほど時間がおしてしまった。最後には無事全員完成し、下の劇場で上映、1作ずつ講評をする。このワークショップでは、駒の時間感覚を身につける事がねらいだ。一駒一駒逐次絵を描いていくので、アニメーション的タイミングの取り方のセンスの差が大きく出る。ずば抜けた傑作はなかったが、何人か動きの良い作品があった。
 その後ディナーに、SICAFのフェスティバル・プログラマーのジニーさん、ラマバジョというアート系アニメーションのDVDやVHSを配給している会社のジャン・ミンチョイさん、韓国のアニメーション評論家のキム・ジュニアさんを迎えて、ハマグリと猪肉料理が名物のレストランへ。韓国ではアニメーション作品が外国で賞を取ると報奨金がでるそうだ。もちろん日本にはない。オリンピック選手は金メダル取るといろいろともらえる様ですが、アニメーションはやはりスポーツほど世の中には認められていないのかな。評論家のキムさんと岡本忠成さんの作品の話で盛り上がる。キムさんの奥さんは沖縄の人ということもあるが、日本語も日本の文化にもとても精通している。

ダイレクト・ペイントのワークショップ

 30日、韓国芸術総合学校でのワークショップ。韓国芸術総合学校は、四百人人受験して十五人しか入学できないアニメーションのエリート学校。機材も韓国一揃っていて、各自に一台デスクトップ・パソコンがあるほか、ワークステーション、ノンリニアの編集環境、DV、アナログ.ベーカム、デジタルベーカムまである収録機、作画台、16ミリ、35ミリの撮影線画台、モーションキャプチャーの設備から音響設備まで、ほとんど完パケのアニメーション作品が学校内でできる環境だ。この学科はSICAFやPISAF(プチョン国際学生アニメーション・フェスティバル)のフェスティバル・ディレクターとして以前から知り合いだった、パク・セヒュンさんがつくったもので、仲間の教授パク・ジャンドンさんから、「学科メーカー」だと言われていたが、確かに百四十もアニメーション学科がある韓国は、今のところ一つしかない日本のアニメーション教育環境とは比べ物にならないほど充実している。
 ワークショップは「傘」「耳」「R」と三つの無関係な題材を与え、短いストーリー・ボードを制作するという課題を出した。この課題は、一駒一駒は別々の絵を、イマジネーションで繋げていって、見ているものに、動きやあらゆる感覚を伝える「アニメーション」的能力のトレーニングになるのではと思い、考案した。さすがにみんな飲み込みが早く、制作中は特に指導する必要がないほどスムーズに進行した。中にはかなり動きをつけたものが数時間で出来上がった。制作を終え、全作品を編集している間に短い講演をして、午後は講評会。まず作者の意図を計り、それが絵の展開と動きだけで、観客に内容を理解させる事ができているかどうかに重点を置き、作品ごとに助言していった。特に助言の必要もなく、そのまま作品化できそうな優秀な作品が二、三あった。

 この二年程こういった講演やワークショップの依頼が多いが、自分としてはまだまだ彼ら学生達と同じ位置に立ち、自身の可能性を追求したい、教育より自身の作品制作に重点をおいていきたいと考えている為、あまり積極的に取り組めず、なるべく引き受けたくないというのが正直な気持ちだが、今回は、設備が整ったアニメーション・センターと韓国芸術総合学校の好環境でやりやすかった事、また先生、生徒、主催スタッフの熱意により、私も前向きに取り組むことができ、自分自身にとっても、とても濃厚な四日間を体験できたと思う。

 ワークショップを終え、すぐインチョン国際空港へ向かう。アニメーション・センターのキム・サンジョーさん、国際交流基金ソウル支局の町田さんとキム・ヨンシンさん、後半二日間通訳をしてくれたソンさんが見送ってくれた。
主催された国際交流基金ならびにソウル・アニメーション・センターのスタッフのご尽力に大変感謝致します。

2004.07ロンドン
 ピカデリーサーカス付近
 ナムコの企画で、ナショナル・フィルム・シアター(National Film Theater)主催の上映会と講演会「Koji Yamamura Animation World」のため、妻と2人、7月26日から8月1日までロンドンに行ってきた。
 上映は1日1回のみで、ロンドン到着後余裕があったので、広島で一緒に選考委員をしたピーター・パールさんのロンドン郊外ニューミルトンのお宅にお邪魔して、夕飯を御馳走になったり、ナショナル・ギャラリー、自然歴史博物館、大英博物館、テート・モダンなど、ゆっくりミュージアムめぐりができた。どのミュージアムも入場無料なのが、文化が身近に気軽に触れられていいなと思った。
 マイブリッジの撮影風景の再現模型
 今回の渡英のもうひとつの目的が、次々回作『マイブリッジの糸(仮)の取材のためにエドワード・マイブリッジの生まれ故郷、キングストンにあるの博物館を訪ねることだ。行ってみると凄く小さな展示スペースだったが、作品のインスピレーションをもらった。
 上映会前日に、スポンサーのナムコ事務所でレセプション・パーティーがあり、双子座で双児のアニメーション作家、クエイ兄弟が来てくれて、弟の(? 双児はどちらが兄か、西洋、東洋で認識のしかたに違いが有るそうだが、よくわからない。)ティモシーは二次会の中華レストランまでいっしょに。明日の上映会の後スタジオ訪問を誘われた。楽しみ。
 ロンドン、ナショナル・フィルム・シアターでの講演
 ナショナル・フィルム・シアター主催で上映会ができる事は、そうないそうで、それも一番広い会場だった。空席が目立ったので、気にしてしたら、この手のアニメーションの上映の中では、入場者数が多い方で、成功だったようだ。『岸辺のふたり』のマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットさんも見に来てくれた。
 クエイ兄弟のスタジオにて
 クエイ兄弟の兄スティ-ブは、カメラの故障で上映に来れず、ティモシーがひとり来てくれて、講演終了後すぐ、会場からそう遠くないスタジオへお邪魔する。スタジオは作品のイメージ通り、アンティークに囲まれて、ほこり一つも作品になってるような繊細な部屋だった。新作の長篇劇映画のアニメーション・パートをこれから撮影するそうだ。先週まで実写部分の撮影でライプチヒに行っていたそうだ。二人でどのように作業分担するのか聞いてみたら、人形作り、撮影、アニメート、すべて均等に一緒にするとのこと。メカニカルをサポートしてくれる人が一人いるだけで、あとはほとんどすべて二人だけで制作するそうだ。帰国後、いただいたDVDで、新作短編『In Absentia』を見る。以前よりシンプルで洗練されたスタイルに感銘を受ける。
 毎回、海外にいくと誰かしらのスタジオやお宅に訪問できる機会に恵まれるが、アーティストと交流するととてもよい刺激になる。

 この場を借りて、Namco、JAL、NFT、FLP、特にこの企画の切っ掛けを作ってくれて、旅行中もずっとアテンドしてくれたFLPの宮田さんにお礼申し上げます。ありがとうございました。

2004.06アニメとアニメーション
 アカデミー賞のノミネート以来、数々の取材を受けたり、講演をする度に話す事だが、私は自分の作ってるものを「アニメ」と呼ばず、「アニメーション」と呼んでいる。英語圏で「アニメ(Anime)」といえば、日本製のマンガアニメーションを差す外来語で、特定のカテゴリーの名前になっている。絵画的なアニメーションやクレイアニメーションを「アニメ」と呼ぶ事は、おかしい。その場合は「アニメーション(Animation)」だ。取材の校正をする度に「アニメ」と書かれている所を「アニメーション」に直している。字数の制限から記事を書く方は、どうしても短い方を好むし、日本人は総じて言葉を短くする事がすきなようで、「アニメーション」ときちんと言ったり書いたりする人のなんと少ない事か。「アニメーション」と言った場合は、一駒一駒、駒撮りで作られたあらゆる技法、話法、内容の映像を差す広範囲な意味にとれるのだが。「クレイアニメ」、「人形アニメ」というのも、私には「クレイ+日本製マンガアニメーショーン」「人形+日本製マンガアニメーション」と聞こえ、意味の違う言葉が並んでいるように違和感を覚える。どうかこれから少なくとも私の作品を「アニメ」と呼ばないで下さい。

2004.05台湾国際アニメーションフェスティバル
 3日間だけだが、第2回台湾国際アニメーションフェスティバルに参加してきた。日程があわずルネ・ラルーの追悼プログラムが見られず残念だった。先月シュトゥットガルトであったエストニアのラオ・ヘイドメッツさんと再開、アニメーションの世界は狭い。数々のNFB作品の音楽を手掛けたノーマン・ロジェさんと、やはり数々のNFB作品をプロデュースしてきた奥さんのマーシー・ページさんともアヌシー以来会う。ノーマン・ロジェさんに、フランスの有名な短編映画祭、クレルモンフェランの審査で『頭山』を「最優秀サウンドトラック・クリエーション賞」に選んでくれたお礼を言う。
 台湾に行ったのは初めてで、屋台や如何わしいお店、ヘビ屋さんが並ぶ夜市(ナイトマーケット)がアジアの熱気を感じて面白かった。


2004.04シュトゥットガルト・トリックフィルム国際映画祭
4月1日木曜日
 シュトゥットガルトのアニメーション映画祭(Internationales TrickFilm Festival Stuttgart '04)に、子ども向け作品の審査員として参加。4月1日フランクフルトから電車で1時間、シュトゥッツガルトに到着。
 到着早々、ホテルのチェック・インをする間もなく、審査員のミーティング、オープニング・レセプション、インターナショナル・コンペティションとつづいて、特に21時からのコンペティションの上映は、疲れと時差ぼけで眠かった。
 インターナショナル・コンペティション会場入口
 シュトゥットガルト・トリックフィルム国際映画祭は、今年で12回を迎え、約500本の映画が上映される。ちなみに「TrickFilm」はドイツ語で「アニメーション」のことだ。マネージング・ディレクターのガブリエル・ロッテンマイヤー(Gabriele Ro..themeyer)とキューレターのウルチ・ウェグナスト(Ulrich Wegnast)が中心となってオーガナイズされている。審査はインターナショナル、子ども向け、学生作品と3部門に分かれていてる。
 子ども向け作品のコンペティション「トリック・フォー・キッズ(Trick for Kids)」部門の審査員は、私を入れて3人。そのひとりウクライナとモスクワで開かれているクロック国際アニメーション映画祭のディレクター、ナタリア・ルキニク(Nataria Lukinykh)とは、アヌシーで会っている。昨年のクロック国際アニメーション映画祭の招待を断ってしまったことを詫びる。もう一人は地元の子ども向けテレビ局のプロディユーサー、スザンヌ・スクーサー(Susanne Schosser)。
 インターナショナル部門の審査員には、昨年タンペレで一緒に審査をして、お宅にも泊めてもらったフィンランド人のヘイッキ・ヨッキネン(Heikki Jokinen)、ブラジルで一緒だったNFBのアニメーション作家のジャネット・パールマン(Janet Perlman)。学生向け部門には、オタワ学生映画祭でこれまた一緒に審査をしたフランスのアニック・タニング(Annick Teninge)がいる。いつの間にか世界各国のたくさんの知人が出来た。単身海外に来てもすっかり孤独を感じなくなってしまった。短編アニメーションの世界は狭いと感じる。エストニアであったヌク・フィルムのマッティ・ラース(Mit Laas)も学生向けの審査員のひとりだ。関係ないがエストニアの男性は、日本の少女漫画に出てきそうな、金髪で、目が大きく、美男子が多い。またブラジルで一緒だったカナダの音楽家で、NFBのアニメーションをたくさん手掛けている(あのウェンディー・ティルビー&アマンダ・フォーブスの『ある一日のはじまり(When the Day Breaks)の音楽も担当している。)ジューディはジャネットと一緒に、そして私の次回作『マイブリッジの糸』をプロデュースしてくれるロン・ダイアモンド(Ron Diamond)も、アクメ・フィルムワークスの新作CMアニメーションのプレゼンテーションに来ている。『流出(Flux)』『一口(Nibbles)(両作品ともコンペティションに入っている。)のカナダ、クリストファー・ヒントン(Christopher Hinton )、『ブーカスキー(Bookashky)(今回はトリック・フォー・キッズにコンペインしている)のロシア人ミハイル・アルダシン(Mikhail Aldashin)ともレセプションで再会。
 21時からのインターナショナル・コンペティション第1回プログラムの上映。会場は、宿泊しているマリティム・ホテル内に隣接してる建物で、便利。今年のアカデミー賞短編部門のオスカー受賞作、オーストラリア、アダム・エリオット(Adam Elliot)の『ハービー・クランペット(Harvie Krumpet)が最後に上映されたが、23分で2巻に分かれていて、最後の巻が見つからず尻切れとんぼで上映終了。セリフを理解できないと笑えないし、キャラクターもあまり好きにはなれず、残念ながらアニメーション作品として興味を持てない作品だった。
4月2日金曜日
 フィル・ミュロイがくれたドローイング
 仕事は、12時から審査のミーティング、その後上映まで時間があったので、通訳のダビットくんと近くで昼食を取る。彼のおすすめで地元のマウルタシュという大きなまさにギョウザのような料理をたべてみる。ポテトサラダもついてとても量がおおい。やはりドイツの人たちは昼間からおおきなビールを飲んでいる。
 14時「トリック・フォー・キッズ」第1回上映スタート。1本目、昨年タフ・アイ(フィンランド)で一緒に審査委員をした、アンドレアス・ヒケイド(Andreas Hykade)の新作『トムとイチゴネズミ(Tom and the strawberry Mouse)。本人もきていたが、コンタクトできなかった。そのうちどこかで会えるかな。
 18時から別会場に移動して「ヌク・フィルム(NUKUFILM)のプログラムを見る。マッティ・ラースがプレゼンテーションした。ヌク・フィルムには、昨年エストニアに行ったとき訪問した。ソ連時代のタリンフィルムが独立して、平面アニメーションのユーニス・フィルムと立体アニメーションのヌク・フィルムに分かれた、エストニアの中心となるアニメーションスタジオだ。何本か初見の作品もあり楽しめた。やはりエストニア作品は変だ。私にとってかなり興味深い。上映後急いで近くのイタリアレストランでパスタを食べる。
 遅刻して1本見逃すが、ジャネット・パールマンの特集を見る。彼女の『ディナー・フォー・トウ(Dinner for two)は大好きな作品で、それ以前の初期の作品2本が見られてよかった。21時からのコンペティションで『頭山』が上映されるので、上映途中で抜けてメイン会場へ。5か所のシアターでそれぞれいろいろなプログラムが上映されている。
 インターナショナル・コンペティション第2回目。今回は全体に質が高い印象。今回のプログラムで一番見たかった、フィル・ミュロイ(Phil Mulloy)の新作『イントレランスIII-最後の解答(Intolerance III-The Final Solution)。今一番Coolな作家は誰かと聞かれたら、フィル・ミュロイと答えるだろう。拷問の道具としてディズニーのビデオをみせる所がおかしかった。パーティーで、一昨夜コンペで上映された『約束された土地(Promise Land)のギリ・ドルブ(Gili Dolev)が、ディズニーに許可をとったのかと心配して聞いていたが、フィルは、ミッキーマウスを出したわけじゃないし、大丈夫だといっていた。まあディズニーに許可をとってこのシーンを作ったなら、彼の皮肉の意味もなくなってしまうが。あとはヌク・フィルムにいったとき製作しているのを見せてもらったことがある、ラオ・ヘイドメッツ(Rao Heidmets)のクレイ・アニメーション『本能(Instinct)が、テンポがあって面白かった。『頭山』もまずまず受けていた。通訳のダビットは一番大きいリアクションだったと言ってくれた。上映後、TACHENの編集者、ジュリウス・ウェイドマン(Lulius Weidemann)が来て、以前からやりとりしていた「Animation Now」というアートブックの私のページのレイアウトを見せてくれた。TACHENはドイツのクーロン、ロンドン、ロスアンジェルス、マドリッド、パリ、東京に支社を持つ出版社で、「Animation Now」はDVDが2枚つき、世界中のアニメーション作家とプロダクションをそれぞれ8ページずつ紹介していく図版の多い美術本。半年後に、英語版とフランス語、スペイン語版が出版される。日本語版は?と聞いたら、うまくいけば出版する考えもあるとのこと。ぜひそうしてほしい。
 上映後のパーティーでは、ギル・アルカベッツ(Gil Alkabetz)とタフ・アイ以来の再会。『約束された土地』のギリ・ドルブもスコットランドに住んでいるが、イスラエル人で、だから、あのような反戦アニメーションを作くったのだと納得。ギル・アルカベッツもドイツに移住したイスラエル人。前回広島で選んだイスラエルのCG作品も質が高かったし、イスラエルのアニメーション作家をまとめて紹介するのもいいかも。
 ロシア人のナターシャが夏のようだといっていたが、昼間は上着がいらない位の良い気候だが、夜は寒い。パーティーで長くテラスの席で座っていたので、体が冷えた。もう少しトレーナーや暖かい上着をもってくればよかった。
4月3日土曜日
 会場の近くにて、左ロン・ダイアモンド、右、審査員ジャネット・パールマン
 午前中は、ヘイッキに勧められたシュトゥットガルト州立美術館にいく。パーマネント・コレクションのモジリアニとピカソがよかった。その日は何かデモがあり、旗を掲げ、笛を吹き鳴らす大群衆が広場の中心に集まって来て、身動きが取れなかった。やっと人込みを抜け出て13時からの「アニメーター・トーク」に駆け付ける。これは昨日コンペで上映された監督が、翌日質疑応答をする交流の会だ。
 終わってすぐまた急いで14時からの「トリック・フォー・キッズ」の上映会場に向かう。第2回目の上映。土曜日なので昨日より客が多い。上映作品も前日より全体に質が高かった。印象に残ったのはNFBのミッシェル・レミュウ(Miche'le Lemieux)の『嵐の夜(Stormy Night)とエストニアのパルテル・タル(Partel Tall)のセリフのないクレイ・アニメーション、『ニンジン!(Carrot!)だ。
 16時、遅い昼食を中華ですませ、17時から雑誌Animaniaのインタビューをうける。
 18時モスクワの「パイロット・アニメーション・スタジオ(Pilot Animation Studio)の特集上映に行く。パイロット・アニメーション・スタジオはロシアではじめての民間経営のプロダクションで、代表のアレクサンドル・タタルスキー(Alexander Tatarsky)は、今回審査員もかねて来ている。コンスタンティン・ブロンジット(Konstantin Bronzit)の『スイッチ技術(Switdh Craft)やショート・ギャグを集めた『エレベーター(LIFT)のシリーズなど笑えるアニメーションが多い。キッズ・コンペにも『ハッシュ(Hash)アンドレイ・ソクーロフ(Andrey Sokolov)が入っている。
 終わって早々20時から新聞の取材をホテルのロビーで受ける。
 21時からはインターナショナル・コンペティションの第3夜。一度ブラジルで見たことのあるコンスタンティン・ブロンジットの新作『神(GOD)は笑わせる3D-CG作品。『世界の果てで(At the Ends of the Earth)もそうだが、シチュエーション・ギャグが上手い人。この夜ある意味で一番印象に残ったイギリス、ロバート・モーガン(Robert Morgan)の人形アニメーション『分離(The Separation)は、悪趣味の極み。見てはいけないものを見せつけられた感じで、気持ちが悪い。鑞人形のようなヌメヌメとしたリアルな質感で出来た人形アニメーション。シャム双生児だった老人二人が、もういちど繋がろうとする話。日本で上映されることもないだろう。『失われた種族の伝説(Legend of the lost tribe)は、アードマンのハイクオリティーなクレイ・アニメーションの新作。監督のピーター・ピークが舞台に上がって気が付いたが、彼とは1996年シカゴで会っていた。あのときは確か眼鏡をかけていたが、コンタクトにしたのかな。懐かしい。しかしこの最後の上映で眠さの極みに達し、(なので『失われた種族の伝説』の半分は、寝ていてちゃんと見てない。)すぐにホテルにもどる。帰り際に女性に声をかけられ「『頭山』は、とても美しいフィルムだった。」と言われる。うれしい。
 この映画祭はコンペのセレクションもいいし、作家、スタジオの特集も的を得ていてとてもいい。こうして沢山の同時代のアニメーション作品を見る事は、作家としてもとても刺激的だ。今の短編アニメーションに欠けている何かをみつけ、自分が何をすべきかを知らしめてくれる良い機会になった。
4月4日日曜日
 「トリック・フォー・キッズ」の審査風景。奥が子ども審査員
 小雨が降る午後、「トリック・フォー・キッズ」会場近くの回転寿司屋へ行ってみる。海のないドイツだが、値段、味も思ったほど悪くはなかった。寿司以外にも饅頭や餃子、焼き鳥が回っていたのは、ちょっと妙だった。ラーメンがあったので注文してみると、具が油揚げとカニカマ、ワカメの茎のミニラーメンだった。
 14時から「トリック・フォー・キッズ」の第3回上映。司会の補佐にクラウンのようなコメディアンのおじさんが付いていて、折畳み式定規で矢印や数字をつくっては、1作の上映が終わるたびに、子どもたちを笑わせてリラックスさせている。今回はあまり良い作品に出会えなかった。
 午後ホテルで休息を取って、18時から私も所属している「アクメ・フィルムワークス(Acme Film Works)のプレゼンテーションに行く。ウェンディ・ティルビー&アマンダ・フォーブスの作ったユナイテッドのCMやマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットのAT&TのCMなど。上映後、昨年ロスのアカデミー賞の時一緒にノミネートされていた『岩のつぶやき(Das Rad)の共同製作者の一人、ハイジ(Heidi Wittlinger)に再会。彼女はこの映画祭のすぐ近くのフィルムアカデミー・バーデン-ウーテンバーグ大学(FilmAkademie Baden-Wurttemberg)にまだ在籍していて、今年卒業するそうだ。ホテルのロビーでエストニアのウロ(Ulo Pikkov 『猿の年(Year of the Monkey)がコンペイン)とすれ違う。やはりヨーロッパからは、コンペインした作家が沢山参加している。
 21時、インターナショナル・コンペティション部門の第4夜。オープニングはプリート・パルン(Priit Parn)の新作『カールとマリリン(Karl and Marilyn)、パルンは来ていなかった。『財布(The Wallet)(ベルギー/フランス Vincent Bierrewaerts)の「もしも、こうしていたら.....」という可能性を同時に見せていく発想は面白いが、絵のクオリティー、動き、演出どれも良くない。残念。『年老いた愚か者(The Old Fools)イギリスのルース・リングフォード(Ruth Lingford)は、暗いが良い作品。彼女はロイアル・カレッジ・オフ・アートの先生で、タフ・アイで一緒に審査員をした。
4月5日月曜日
 左からアニック・タニング、ギル・アルカベッツ夫妻
 4日目のマリティンホテル、朝食の席でやっとアニックに会えた。フランス、バランスにあるラ・ポードリマという彼女が常勤で先生をしているアニメーションの専門学校に、1週間教えにきてもらえないかと、ずいぶん前から頼まれていたが、まだちゃんと返事をしていなかった。バランスでのワークショップは、今年は新作を作っているので行けないとお断りしたが、2年後でもいいから、気が向いたらぜひ来てほしいと頼まれる。
 14時から最後の「トリック・フォー・キッズ」、第4回目の上映。目立って良いものがない。『Antagonia』(カナダ、Nicolas Brault)は、子ども向けとしては評価できないが、裏と表、影と実体の関係を魚と鳥(?)のキャラクターで、面白く描いていた。なぜか『失われた種族の伝説(Legend of the lost tribe)』が子ども向けにもコンペインしている。今回やっと全編見たが、つまらなかった。
 結局カナダ『嵐の夜』が全員一致で一番質が高いと認められたので、審議はスムーズに決定した。1本飛び抜けていいものがあると審査は楽。審議の最後に『嵐の夜』をもう一度ビデオで見直したが、ポジティブな子どもの哲学とイマジメーションが、上質なイラストレーションとアニメーション、音楽で的確にまとめられて、とても良い短編だ。ちなみに子ども審査員が選んだのは、同じくカナダNFBの『昭和新山』。とてもまじめな選択で意外だった。この作品は、私がNFBを訪れた時、ちょうど製作中だったので近親感があるが、日本の戦時中の北海道が舞台で、日系カナダ人のアリソン・レイコ・ローダー(Alison Reiko Loader)によるCG作品だ。この作品のプロデューサーは、私の次回作『マイブリッジの糸』のNFB側のプロデューサーのマイケル・フクシマ(Michael Fukushima)だった。マネージング・ディレクターのガブリエル・ロッテンマイヤーに3人で審査結果報告、これで明日のアワード・セレモニーで全ての仕事が終わる。ロビーで、マインツで日本映画のキューレターをしている町口さんに会う。いま「日本の新しいアニメーション」という上映プログラムで『頭山』と『キッズキャッスル』を上映していて、そのチラシを届けてくれた。
 夕食は、審査員全員でイタリアン・レストランへ。インターナショナルの審査員の一人、MTVヨーロッパのピーター・ドゥーティー(Peter Dougherty)が私が以前仕事をしたVibe-IDの話をしてきた。彼も時々日本のミュージック・チャンネルに行くそうだ。食後、モグラやカエルのマペットによるヒップ・ホップ・パーティーを覗く。ちょっとキャラクターが面白かった。すごい音量でベースが体に響いて気持ちよかったが、適当に見てホテルへ戻る。
4月6日火曜日
 ギル・アルカベッツ夫妻、御自宅にて
 最終日、審査発表の日。午前中は空いているので、10時に待ち合わせて、ジャネットとジュディと一緒に、ギル・アルカベッツさんのお宅件スタジオにブランチをご馳走になりに行く。ギル・アルカベッツさんは夫婦で制作していて、レタスプロを使っている。うちと環境が似ている。
 15時からアニックの学校、「ラ・ポ-ドリマ(La Poudriere)のプログラム。(2002年に訪問しているので雑記1「1日フェスティバル」を参照。)ここの学生作品はクオリティーが高いが、全部を見てみるとちょっと物足りない感じがした。17時から夕べ見られなかったインターナショナル・コンペティション5では、スプラッタ・クレイ・アニメーション『監視13(Ward 13)(オーストラリア、ピーター・コーンウェルPeter Cornwell)が、残酷な病院内の車椅子のカーチェイスで笑わせてくれた。19時からインターナショナル・コンペティション6では、人形アニメーション『料金徴収員(The Toll Collector)(アメリカ/チェコ、レイチェル・ジョンソンRachel Johnson)が良い雰囲気でした。ポール・ドリエセン(Paul Driessen)の新作『2D・オア・ノット2D(2D or Not 2D)は、相変わらずの上手い動きと色彩センスだが、ショート・ギャグの寄せ集めで、少々期待外れだった。多分100本以上新しい短編アニメーションを見たが、心から素晴らしいと言える作品には出会えなかった。
 20時30分からクロージングレセプション、21時からアワード・セレモニーと続く。『頭山』は審査員特別賞を受賞した。他の受賞作、詳しい情報は下記の映画祭HPで。
http://www.itfs.de/

2004.03Old Crocodile
『年をとった鰐』(英語タイトル・Old Crocodile)の制作を順調に進めています。テーマは『愛と権力』(Love&Power?)、と書くとすごくベタなテーマに聞こえますが、ショヴォーの皮肉を余り饒舌にならないよう、忠実に映像化したいと思っています。ナレーションをピーター・バラカンさんにお願いして、今日(3/31)に録音しました。とてもクールででも温かい独特の声のトーンが、作品世界を良く表現できたと思っている。
 映像も流れができてきて、約12分の短編になりそう。いつもは部分から制作して、徐々に全体像を掴み、音作りも最後になる事が多いのだが、今回は、はじめから全体像をかためつつ、ナレーション優先で、アニメーションのタイミングの調整を進めて行くつもりです。

2004.02年をとった鰐
 2004年に入って俄に新作が動き始めた。一つは前々から公言している、NFB+アクメ・フィルムワークス+ヤマムラアニメーション(加・米・日)共同制作の『マイブリッジの糸(仮)(仮りの英語タイトル・Muybridge's Strings)でこちらはあと2年ほど先の完成予定。
 もう一本は『頭山』の制作開始頃の'86年あたりから企画をあたためてきた『年をとった鰐(仮)(仮りの英語タイトル・Old Crocodile)だ。こちらは原作がフランスの作家レオポルド・ショヴォーの『年をとったワニの話』(福音館書店/出口裕弘 訳)で、文藝春秋からも山本夏彦訳の復刻版『年を歴た鰐の話』が昨年発売されている。福音館書店と出口さんの承諾のもと、制作を進めている。こちらは年内の完成を目指しています。制作の詳細は追ってこのコーナーにアップします。

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